「私の東大合格作戦2000年版」に呉座勇一氏の合格体験記が掲載されている。呉座氏は、歴史学者として知られ、2016年に出版した「応仁の乱」は48万部を超えるベストセラーとなった。しかし、一方で「呉座の乱」と呼ばれる2021年の騒動でも注目を集めた。この騒動は、呉座氏のツイッターでの言動が、2021年4月4日に出されたオープンレター「女性差別的な文化を脱するために」で名指しで批判されたことに端を発する。これにより、国際日本文化研究センター(日文研)から准教授の内定を取り消されたが、呉座氏は、日文研を提訴するとともに、オープンレターの「呼びかけ人」や日本歴史学協会(日歴教)も提訴した。2023年に日文研とは和解し、2025年4月1日付で准教授に昇進している。オープンレターの「呼びかけ人」とも2023年9月に和解したが、日歴教には敗訴している。また、呉座氏は、春木晶子氏の「五反田ベース事件」にも巻き込まれ、ゲンロンからもキャンセルされた。
呉座氏の合格体験記は「私の東大合格作戦2000年版」の45-56頁に掲載されており、密度の濃いものである。余計なことは一切書かれておらず、もしツイッターでもこの精神で発信していたら、騒動は避けられたかもしれない。
呉座氏は、文学や歴史への興味から文三を志望したが、東大を選んだ理由は「ブランド志向」だったと率直に述べる。東大入試の傾向については、英語は過去問の傾向が変化しており参考になりにくいと指摘している。一方、全科目に共通するのは論述式問題であるため、「文章構成力・論述力が合否を分ける」と強調する。
呉座氏は受験勉強を本格的に始めたのが高三からだったため、時間が不足していた。基礎力と実践力を同時に養う必要に迫られた。高三の二学期以降は、高三までに基礎力をつけておけばよかったと何度も思ったとのことで、「さらにはこういう勉強をしておけば、ああいう勉強をしておけば、と具体的内容まで考えるようになりました(実に非生産的ですが)」とあり、このあたりにはユーモアを感じる。英語の長文読解で苦労したのは、迅速かつ正確に読む力が不足していたためである。英語の基礎力とは、長文を速く正確に理解するための基盤であるとされる。数学は高一での怠慢が原因で苦手意識が芽生え、「苦手だから嫌い、嫌いだから苦手」という悪循環に陥った。数学を得点源にするには、「高三までに数学を得意・好きにしておく必要がある」と述べる。
呉座氏は通っていた海城高校の授業は受験に直結しないと判断し、授業中は内職に徹した。ただし、赤点は避けるよう注意を払った。
センター試験対策、併願校(私立文系は全て合格)、本番でのリラックスした心構えなども述べられているが、特筆すべきは呉座氏の戦略性である。高三で英語と数学の基礎が身についていない状況は不利と言わざるを得ないが、東大入試を徹底的に分析し、科目ごとの基礎を明確に見極め、合格への道筋を何とか切り開いたといえるだろう。
呉座氏の合格体験記の最大のメッセージは、高二までに基礎力を身につけることの重要性である。しかし、もし高二までに基礎が完成していれば、ここまで綿密な戦略を練る必要はなかったかもしれない。逆説的に言えば、基礎不足という危機が、呉座氏の戦略家としての才能を際立たせたともいえる。この体験記は、単なる合格の記録を超え、逆境を戦略で克服する姿勢を示している。
