野鳥の生態シリーズ第2回目は
日本でも馴染み深いオカメインコです。

呑気でおっちょこちょいな印象の彼等。
野生での本来の姿はどの様なものなのでしょうか?
大自然を生き抜く逞しい姿に迫ります。


野生のオカメインコの生態


オーストラリア内陸部の砂漠地帯。太陽に焼かれた大地はまるで灼熱を呈するかの如く赤銅色に燻っている。

日中の気温は35℃を軽く超え、冬季に当たる6-9月の夜間には放射冷却が活性化する影響で、5℃まで落ち込む事もある。日中は強風が吹き付けるが夜間には穏やかになる。年間を通しての湿度は30-40%と低めだ。

砂漠・ステップ気候の特徴は雨季と乾季の期間が非常に不安定で、10年間も雨が降らない事があると思えば、ひとたび雨が降ろうものなら2年間も降り続く事があるという非常に不明瞭な点だ。
この様な過酷で気紛れな環境に暮らす生き物達は、それぞれが独自の進化を遂げて生きる術を身に付けている。
今回の主役、オカメインコもその一員だ。


オウム目オウム科に属するオカメインコは名前に反してインコではなくオウムの仲間であり、現存する21種類のオウム科の中では最小。インコとオウムを区別するポイントは頭頂部に生えた冠羽と呼ばれる飾り羽の有無である。尾羽までを含めた体長はハトと同程度だが体自体はより小型だ。

灰褐色の体色にチークパッチと呼ばれる頬のオレンジ色が印象的で、オスではチークパッチがより大きく濃い色合いをしていると言われる。全体的に地味な体色は天敵の目を欺く保護色としての役割を担っている。

性格は極めて臆病で警戒心が強く、天敵から逃れる際は優れた飛翔能力を駆使して難を逃れる。その飛翔速度はオーストラリア1であるとも言われ、直線飛行から旋回飛行までを難無く熟す。

家族意識が強く愛情深いオカメインコは主に幾つかのペアとその血縁関係で構成された10数羽程の小規模な群れで暮らし、普段は穏やかな性格だが身の危険を感じれば攻撃的になる一面も備えている。


砂漠・ステップ気候という過酷な環境に生きる彼等は、雨雲を追いかけて常に大移動を繰り返す使命を背負っている。天の気紛れが雨を降らせて生み出したオアシスにはオカメインコ以外にも多くの生き物達が集い、故に生態系ピラミッドは急速に拡大する。

ひとたび恵みの雨が植物の種に芽吹きを与えると、一斉に成長して花を咲かせ種子を実らせる。多くの草食性動物に加え種子食性のオカメインコもまた恩恵に肖るのである。

彼等の主食はイネ科の種子だが実ったモノよりも地面に落ちた落穂を好んで採餌し、ユーカリやアカシアの葉も好んで食べる。農村地帯では日本のスズメの様に稲穂を荒らす害鳥として扱われる事もあると言う。時に人家やビルに塒(ねぐら)を構えたり、都市部の電線で鈴なりに休んでいる姿が確認される等、適応力の高さも伺える。


乾燥地帯に突如出現したオアシスだが、いつまた元の灼熱砂漠に変貌するやも知れぬ為、餌水資源が豊富なこの短期間に生き物達は慌ただしく命を繋がねばならない。雨と共に押し寄せた生き物達はまた、雨の移ろいと共に消え去ってゆくのだ。この現象を「ブーム&バースト」と呼び、彼等を追う動物取材班やカメラマンを日夜狼狽させている。

この様に不安定な気候によって常に移動を余儀なくされ放浪を続けるオカメインコは漂鳥(ひょうちょう)に分類される。特に極端な気候で知られるオーストラリア北部と南部の個体群では時に100羽単位の群れをなして大移動を繰り返し、ユーカリの低木が自生する「マリー」と呼ばれる林を主な住処として構えている。


「ブーム&バースト」の波紋に輪を加えるのは無論オカメインコも同様だ。自らの餌水を確保すると同時に新たなる世代の生誕にも貢献しなければ、種の保存は望めない。

オカメインコのペアは生涯を連れ添い、とても仲睦じい夫婦関係を築く事で知られている。夫婦が生活環境、繁殖場所として好むのは見通しの良い湖や川辺にあるユーカリ林であり、この様な環境には塒や営巣に適した巨大なユーカリの枯木が点在する。

8-12月の春〜夏にかけてユーカリが花を咲かせる頃に彼等は短期間で繁殖するが、条件さえ整えば4月の晩秋あたりから巣作りを始めるペアもいると言う。ある調査によれば、オカメインコの繁殖がピークを迎えるのは日照時間が10時間を越える時期である事が判明している。


ユーカリの巨樹や窪みのある樹にウロを見付けると夫婦は巣作りを始める。雌は1日おきに4-6個の卵を産み、日中は雌、夜間は雄が平均21-23日間抱卵する。孵化した雛の給餌も夫婦が協力して行い、巣立ちを迎える4-5週間の間は育児に勤しむが、巣立ちを終えた若雛でも暫くは親鳥に餌をねだる行動が見られる。

晴れて群れの一員となった若雛に与えられた試練は、1日も早く過酷な環境を生き抜く強さと賢さを身に付ける事だ。今は豊かで優しい揺り籠の様に映る故郷が、元の枯れた砂漠に燻る日を知る由はないからだ。


天の気紛れが、彼等の翼の舵を切る。約束の無いオアシスを追い続ける鳥、オカメインコ。明日は何処に、彼等の姿を見るだろう。

REN.