千葉県内の某河川に一羽のヒシクイが住んでいます。
おそらく雄の個体で、ここで確認されてからもう5年程経つでしょうか。
勝手ながら私は彼に「ヒッシー君」と名前を付け、時折様子を見に訪れています。
これがヒッシー君
今年の9月9日に撮影しました。(お隣はカワウさん。)
ヒシクイは全長80センチ程のガンの仲間です。(ガン類はカモ類に近縁の水鳥)ガン類はハクチョウ程ではないものの大型の水鳥です。隣にいるカワウと比べるとその大きさが分かりますよね。
春から夏はユーラシア大陸北部で繁殖し、日本へは秋に越冬の為渡って来ます。ただし越冬地は局地的で、千葉県には滅多にやって来ません。(尚、ヒシクイは天然記念物です。狩猟など捕獲は堅く禁じられています。)
日本では3亜種が確認されており、亜種オオヒシクイ、亜種ヒシクイ、亜種ヒメヒシクイが記録されています。ちなみにこの子は亜種ヒシクイです。
彼等は越冬地の日本では群れで活動し、田んぼなどで二稲穂(刈り取られた後に生える稲穂)や草を食べ、夜は湖や海で休息します。そうして春の訪れとともに繁殖地である北の国を目指し飛んで行くのです。
ところがこの個体は一年中この川にいます。最初はなぜか分かりませんでしたが、しばらくしてその異変に気付きました。
上の写真をよく見てみて下さい。お気づきになりましたか?彼の目…右目…窪んでいませんか。
そう、目に異常があるのです。目が萎縮してしまい、見えていないようなのです。
聞いた話によるとヒシクイなどの鳥にみられる病気なのだそうです。
つまりこの障害の為に北に渡れずにいたのです。
2019年7月6日…頭を掻きおくつろぎ中のご様子。
2020年2月2日…羽ばたき。立派な翼です。
2021年3月6日…写真の場所。なんとここは、川の上の田んぼです。ここには歩いてはこれません。なんと彼は短距離ならば飛行することが出来たのです。しかもこの時は田んぼを走っていました。元気そう!
2022年11月3日…コガモやオオバンと一緒に休息。ヒッシー君は他の水鳥たちとは仲良し。(たまに追い払うことはありますが…笑)特にコガモ(写真の小さなカモ類)たちがお気に入りのようで、一緒に寝る姿を見たこともあります。コガモたちもこの図体の大きいよそ者を嫌うわけでもなく仲間に入れていました。
2019年からのヒッシーくんの記録を簡単にご紹介しました。
目に障害を持ち、仲間とも逸れ、日本の夏の暑さにも耐え、秋の台風の増水にも脅かされる。更に私の知っているだけでも二回、翼を怪我をしていたようです。きっと田んぼに移動した時にでも怪我をしたのかもしれません。短距離とはいえども片目での飛行は危険が伴うはずです。彼は痛みに耐え、じっとうずくまっていました。
最近でも翼に怪我をおったようで、じっとしている様子を見たことがあります。今回はちょっとまずいかなあ…と思っていましたが見事に復活し、元気に泳いでいました。本当に心からホッとしました。
彼の生活は普通のヒシクイたちとは違います。ですから一見すると、彼の置かれた状況はとても不幸に感じます。
でも各年に撮影した写真を今一度見てみて下さい。
とても伸び伸びと、そして生き生きとしてませんか?
今置かれている場所で、状況の中で、彼は彼なりのライフスタイルを確立し、そして生活しています。
そしてまた彼を取り巻く環境も、そんな彼を受け入れているようにも思えます。川岸には草が生え餌場となり、小さなカモたちも仲間になってくれています。
自然は過酷で、野生世界は時にシビアです。確かに厳しく、残酷なことすらあります。でもこのヒシクイを見ていると、決してそれだけではないように思えます。
自然界は懐の深い一面も持ち合わせているんですね。
またしばらくしたら彼の様子を見に行きたいと思っています。
では皆さん
👋またでーす
(ただ一つ大きな疑問が…そもそも千葉県ではまず見られないヒシクイが、なぜここに来たのでしょうか?千葉県は彼等の渡りのルートからは外れています。それとも、まだ知られていない渡りのルートがあるのでしょうか?それかたまたまか…🤔謎は深まります…ね。)