「ねぇねぇ、姉様名前付けて」

「ねぇねぇ、兄様名前つけて」

  森でよく会話する仲だった梟の亡骸を依代に、この世に居座るたたりもっけが強請ってくる。

 梟のやっと仲の良かった私はどうも、こやつらに甘くなる。それに、多分それだけでは無い。

 その在り方も成り方も。たたりもっけは呪物化した付喪神に近い。

 付喪神は人の善い感情を受けて育てば身代わりの守りにすらなるが、悪い感情を受けて育ったものは人を呪う。

 眷属の付喪神は前者とはいえ、身内に近い成り立ちの妖怪にきっとどこかしら重ねてしまうのだ。


「名前ぇ?大した力のない私に付けられたとこで大成できないし、そもそもネーミングセンスの無さは劣で知ってるだろう?」

 眷属の付喪神の偽名(まがな)を例に出す。

「しってる」「優しい名前」「だから姉様がいい」「だから兄様がいい」

 しかし、意外なことにウケがいい。……あの子の名前、劣等品や劣化品って意味なのになぜそのようにおもうのか。

「別々がいい」「別々につけて」「ぼくたちようのを」「私たち用のを」

しかも名前を二つ御所望らしい。めんどくさい。

「……福守、多々。男が福守、女が多々だ。」

 しかたないので、 梟とたたりもっけのもじりでつけてやる。

「ふくもり!」「たた!」

 何がいいのか、梟は嬉しそうにはしゃぎ出す。

 人間的には可愛く見えるかもしれないが、元は老衰で死んだ鳥の体……要はじじいがはしゃいでも私的にはちっとも可愛くない。

「気に入った」「気に入った!」「姉様だいすき!」「兄様大好き!」

「そうか、それは良かった。ほら、飯ができたぞ」

「わーい」「姉様のご飯!」「兄様のご飯!」「だいすき!」「大好き!」

 梟は中性的な人間に化けると、嬉しそうに席につく。

「落ち着いて食えよ」

「はーい」「分かった」「善処する!」

「守る気無いだろ」

 中身が子供の集合体なこともあって、死なない程度握りもなかろうについ、見つけた時から面倒を見てしまう。

 だが、そんな名状しがたい関係を特に不快に思うことも無く……きっとまた私はこいつらに餌付けに来てしまうのだ。