こんにちは
高校生の皆さんは期末テストの時期になっていますでしょうか
大学も前期の定期試験の日程が発表されて
大学生の皆さんも勉強に本腰ですね
今日は中川先生よりお話ししていただきましょう
前々回 (2017.2.16),前回 ( 2017.4.21)と2回にわたって,一発の巨大隕石が1億4000万年続いた恐竜王国を壊滅させたことを書きました。そこで疑問になるのが,「それでは,このような地球上の生命体の存続に関わる巨大隕石の衝突は果して1回だけだったのだろうか?」ということです。
これに回答を出したのが,シカゴ大学の古生物学者デビッド・ラウプとジャック・セプコスキーです。彼らは過去2億5000万年間の生物の歴史を調べて,「大量絶滅は12回おこっており,それは約2600万年ごとの周期性がある」という論文(1984年)を発表しました(図1)。
地球史上生命の75%以上が失われるような大量絶滅は5回おこっており,ビッグ・ファイブと呼ばれています(2014.1.21, 22)。原因は大陸移動やマントル・スプロームが想定されていますが,これらの要因に周期性があるとは考えられません。そこでラウプとセプコスキーは地球外の何かに原因があるのではないかと考えましたが,古生物学者である彼らにはそれ以上のことはわかりませんでした。
直ちにいくつかの天文学者や天体物理学者がこのメカニズムの解明に取り組みはじめました。そして偶然にも1984年4月のNatureに二つのグループが同時に同じ考えを発表しました。その仮説は,太陽には未発見の伴星があり,この星が周期的にオールトの雲に接近して莫大な数の彗星を生みだし,そのうちのいくつかが地球
に衝突し,大量絶滅をもたらす というものでした。
太陽のような恒星は,半数以上が二つの星が互いの周りをまわる連星であることがわかっています。明るい方の星を主星,暗い方の星を伴星と呼びます。太陽にも伴星があるという考え方です。太陽の伴星は太陽から5万から10万天文単位の軌道を回っている恒星であるとされています。天文単位というのは地球と太陽との平均距離のことです。この伴星は非常に小さい赤色矮星で,あまりにも小さくて暗いためにまだ見つかっていないという仮想上の星です。この仮想上の星はネメシスと名付けられました。ネメシスとはギリシャ神話に出てくる女神で,人間の思い上がりに対して怒り,罰を下す神です。
太陽系が形成されるときに,木星と海王星の間にあった小天体が惑星になりそこねて,互いに衝突したり,重い惑星にはじかれたりして,海王星をはるかに越え,太陽から1万から10万天文単位のところに球殻状に広がっている という考えがあります。これらの小天体は1兆個以上もあり,この説を唱えたオランダの天文学者ヤン・オールトにちなんで「オールトの雲」と呼ばれています。オールトの雲の存在は長周期の彗星の長半径軌道や傾斜角から推定されたもので,実際に観察されたものではありません。
仮想のネメシスが仮想のオールトの雲に2600万年ごとに接近して小天体をかき乱して彗星を生み,そのうちのいくつかが地球に衝突するというのがネメシスの仮説です(図2)。仮説の上に仮説を重ねた話ですから,想像の域を出ませんが興味ある話です。
恐竜が滅ぶまでを中生代,それ以降を新生代と言います。新生代は暁新世(6650~5600万年前)から始まり,次が始新世で5600万年前から3400万年前まで続きます。その次を漸新世と言いますが,始新世と漸新世の境界にあたる3400万年前に大量絶滅がおきています。その原因の一つに隕石の衝突説があります。
シベリアのポピガイクレーター,アメリカのチェサピーククレーターおよびトムスキャニオンクレーターがその時の衝突でできたものとされています。この衝突により一時期気温が低下し,それまで栄えていた動物の多くが死滅し,それに変わる新しい種が発展してきました。因みに霊長目ではその時期に,類人猿(ヒト上科)がオナガザルの仲間(上科)から分かれて出現しています。
そして最新の大量絶滅は約500万年前におきていることから,ネメシス説の提唱者の一人であるリチャード・ミュラーは,ネメシスは現在太陽から1~1.5光年離れた位置にあるとしています。500万年前というと,ヒトの祖先がチンパンジーの祖先と分かれて最初期の猿人(サヘラントロプスやアルディピクス)になる時期です。もしかするとヒトの祖先がヒトになる道を歩み始めたのも,この大量絶滅がきっかけになったのかもしれません。そして,2100万年後の隕石衝突を私たち人類は見ることができるのでしょうか。
参考文献
リチャード・ミュラー著,手塚治虫監訳 「恐竜はネメシスを見たか」 集英社,1987年
図1は Raup DM and Sepkoski Jr JJ : Periodicity of extinctions in the geologic past. Proc.Natl. Acad. Sci. USA 81(3):801-805, 1984. から引用しました。
図2はhttp://www.tsuna-tsuna.com/astronomy-11.html から拝借しました。