一酸化窒素 (NO) | 鳥取大学医学部保健学科検査技術科学専攻のブログ

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臨床検査技師を目指して頑張る鳥取大学医学部保健学科検査技術科学専攻の学生と教職員の日常をご紹介しています

こんにちは音譜


今日はクリスマスクリスマスツリーですね

朝はどしゃぶりでしたが雨

お昼くらいから日差しが出てきました晴れ

やはり今年は暖冬で

雪も積もらないですねダウン

近くのスキー場の大山も富士山

先日スキー場開きされましたが

積雪がないそうです汗

スキー場だけでも雪は降って欲しいですよね雪


今日は石黒先生からのお話です耳


リース  momi2*  リース  momi2*  リース

一酸化窒素(NO)は分子量30のガス状物質で,不対電子をもっているので非常に激しい反応性をする化学物質(フリーラジカル)です。NOは雷雷や山火事の時に空気中の窒素が高温で燃焼して生成することもありますが,ほとんどは石油,石炭を燃やす際にできます。ゴミ燃焼炉からも出ます。大気中に放出されたNOは直ちに酸素と結合して二酸化窒素(NO2)になります。NO2は紫外線によりNOと原子状酸素に分解され,この原子状酸素が光化学スモッグを引きおこすオゾンなどの,いわゆるオキシダントになります。また窒素酸化物は大気中の水蒸気と反応して硝酸になり,酸性雨雨の原因になります。



ところが,生体はこの危険なNOを積極的に合成して,いろいろな生理機能に利用しているというから驚きです。生体内のNOは一酸化窒素合成酵素(NOS)によってアルギニンからつくられます。NOSには血管内皮型(eNOS),神経型(nNOS),誘導型(iNOS)3種類が知られています!!



1. 血管内皮型 (eNOS)

血管内皮細胞はeNOSを使ってNOを合成します。生成したNOはグアニル酸シクラーゼを活性化し,活性化したグアニル酸シクラーゼはGTPをサイクリックGMP(cGMP)に変換します(1)cGMPは平滑筋を弛緩させて,血管を拡張させます。






心臓から出た大動脈はすぐに分岐して,心臓の筋肉を養う冠動脈になります。狭心症はこの冠動脈が狭くなって血が流れにくくなり,心筋が酸素不足になる病気です。ニトログリセリン(C3H5(ONO2)3)はダイナマイトの原料です。1846年に発明され,1880年代には早くも狭心症発作を抑える薬として使われていますが,ニトログリセリンの作用機序が解明されたのはサーチ,それから100年も経ってからのことです。ニトログリセリンを舌下に投与すると,12分で直接冠動脈に到達してNOを遊離し,このNOが冠動脈を拡張させて血流を確保するのです。1998年循環器系におけるNOの生理作用を解明して,ラムド,ファーチゴット,イグナロの3名がノーベル賞優勝カップを受賞しました。因みにダイナマイトを発明したノーベル自身も晩年心臓病を患い,ニトログリセリンの世話になっていたそうです。


cGMPcGMPホスホジエステラーゼによって分解されます。ミノキシジルという薬はcGMPホスホジエステラーゼを阻害して血流量を維持する働きがあります。発毛剤のリアップ®はこの作用を利用しています。同じくcGMP分解抑制作用のあるシルデナフィルはバイアグラ®に使われています。


1. 神経型 (nNOS)

神経細胞にはnNOSという酵素があって,多くの脳神経細胞がNOを合成しています。NOはシナプスにおける情報伝達の手段として使われており,学習や記憶に役立っています。


2. 誘導型 (iNOS)

細菌感染がおこるとマクロファージが細菌を捕食します。それと同時に炎症性サイトカインを放出して,周囲の細胞に警戒信号注意を発します。これを受けた周囲のマクロファージは活性化し,感染部位に集まってきて,細菌を捕食したり,細菌の種類を抗体産生細胞に知らせたりして免疫反応をおこします。マクロファージの免疫反応の一つにNOの産生があります。常時発現しているeNOSnNOSとちがって,マクロファージのNOSは細菌毒素や炎症性サイトカインで誘導された時だけ発現するので誘導型NOS(iNOS)と言います。

マクロファージは大量のNOを合成して,NOで細菌を殺そうとします。敗血症などの重症感染になると,マクロファージが過剰のNOを合成して,その結果全身の血管が拡張し,低血圧ショックになることもあります。ガン細胞に対してもマクロファージから合成されたNOは直接ガン細胞を殺そうとしたり,アポトーシスを誘導したりして自殺に導くような働きをしています。


近年,生体はフリーラジカルのNOを信じがたいほどの多くの場面で使っていることが分かってきました。そして研究が進むに従って,NOの作用は今後どこまで広がっていくのか見当もつきません!?。では生体がNOを使い始めたのはいつ,どこでか。これに対する解答はありませんが,ヒントはマクロファージにあります。


まだ多細胞生物が出現していない10億年以前においても,単細胞どうしで「食う-食われる」の関係があったものと思われます。そして食う側が攻撃のためにNOを使ったのか,逆に食われる側が捕食者を撃退するためにNOを使ったのか,わかりませんが,毒ガスとしてNOが使われたのではないでしょうか。

そして,それが多細胞生物になった時に,外敵を殺す役割をもつマクロファージに受け継がれたものと思われます。その後,生体はNOの利用を拡大していって,現在に至ったのではないでしょうか。NOには生命進化のロマンが秘められています。