総選挙の後の閣議後、各大臣が記者会見で発したある言葉が注目を集めた。

揃いも揃ってどの大臣も

「謙虚に」

と述べたのだ。テレビのニュースで見ながら、私はちょっと異様な感じを受けた。どうして大臣たちが異口同音に同じ単語「謙虚に」を発するのか?

閣議直後の会見なので、これは恐らく閣議で話題になったんだろうな?ぐらいは想像出来る。が、話題になったぐらいであそこまで徹底して共通単語を各大臣が口にすることはない。

一つの結論: 総理大臣の指示があったから!

そうなのだ。

衆院選直後の記者会見で安倍総理はこう述べている。

「今まで以上に謙虚な姿勢で、真摯な政権運営に全力を尽くさねばならない」

「謙虚」

を言い出したのは他でもない安倍総理大臣である。閣議でも総理からこの言葉が各大臣に伝えられ、それがあの異様な「謙虚に」連発になったと思われる。

それから時間も経たない内にある重要な問題が国会を舞台に持ち上がった。

それは結論を先に言うと

「謙虚に」

と真逆な発想を安倍自民党総裁は萩生田光一・自民党幹事長代行に指示したことが明らかになった。

萩生田幹事長代行「直近の民意を考えれば野党に質問時間を譲っているのは国民の理解を得られない」

安倍総裁「われわれの発言内容を国民は注目している。しっかり機会を確保していこう」

これが国会に於ける質問時間の与野党比率見直しの出発点となった。

これまでは衆院予算委員会などでの質問時間の配分は、与党と野党で「2対8」が慣例だった。これを選挙結果の議席数に合わせて「7対3」に変えようというのが自民党の言い分だ。

これは一見まともな意見のように見える。

議席数に合わせる。

なるほど。

そう思う人も多いかもしれない。

しかし、選挙結果の民意をどう見るか?国会の歴史的経緯をどう解釈するか?国会での与野党の立場の違いをどう判断するか?
そもそも三権分立の原理上立法府と行政府(政府)の関係はどうあるべきか?など様々な論点で、この野党質問時間削り問題は大きな疑問をはらんでいることが分かる。

1.簡単に民意と言うけど、確かに選挙区では議席数に大きな開きが出たけれど、これは一票でも多い方が当選する小選挙区制の結果だ。民意と言うなら比例区で比較しなければならないはずだ。

私は計算機片手に与野党の票を数えてみた。

与党(自民・公明)2553万票
野党(立憲・希望・共産・社民)2610万票。

民意を言うなら単純に議席数だけで比較するのではなく、比例区の結果も考慮すべきだ。

2.歴史的経緯を言うなら歴代内閣では常に質問時間は野党側に多く配分されてきた。直近で言えば

鳩山内閣:与党13%  野党87%

菅内閣: 与党16%  野党84%

安倍内閣: 与党30% 野党70%

つまり、自民党は野党時代は圧倒的に多くの質問時間を維持していたのだ。

3.国会に於ける与野党の立場の違い。
与党は予算案をはじめあらゆる法案の審議以前にまず官僚から懇切丁寧な説明を受け、更に自党の政務調査会などで十二分に議論し、さらに総務会の了承を経て、初めて国会審議の場に出される。

野党はそこで初めて法案の内容を知る訳だ。審議スタート時点で与野党の法案に対する認識の差は天と地ほどの違いがある。
こうしたことを考慮して歴代内閣では一貫して国会審議の質問時間は常に野党に時間が与えられて来た。

4.国会=立法府の役割は権力(行政府)の監視にある。

これは三権分立の基本であり、民主主義の根本原理である。

だとすれば、野党の立場から権力(行政府)をチェックする勢力により多くの質問時間を与えるのは当然の帰結なのである。

以上の論点から自民党の

「質問時間増要求」

は暴論であり、筋違いな議論である。

では何故「謙虚」の袖の下からこんな「暴論」が飛び出して来たのか?

誰しも不審に思うだろう。

答えはただ一つだろう。

安倍総理大臣が「森友・加計学園」で野党にいじられるのがイヤなだけだろう。

こんなことが国会で堂々と議論されるなんて、本当に日本の政治は劣化したなぁ、と思わざるを得ない!