28日夜いつも通り「報道ステーション」を見ていた。

トップニュースは岐阜市の病院で起きた高齢者患者4人が短時間の間に立て続けに亡くなったことを報じた。

私の抱いた違和感は画面上にずっと

「殺人容疑で病院捜査
             エアコン故障で4人死亡か」

というテロップが出続けていたこと。

私の抱いた違和感を説明する前に事案の詳細を今分かっている範囲で述べておこう。

「報道ステーション」が伝えるところでは、岐阜市内の病院で26日から27日にけて約15時間の間に83歳から85歳までの高齢者患者男女4人が立て続けに亡くなった、という。患者がいた病室のエアコンは20日に故障して、以来扇風機9台で補っていたそうだ。

映像がスタジオに切り替わり、富川キャスターが、現場の病院前にいる藤富 空記者に問いかけた。

「藤富さん、何故今回容疑が殺人なんでしょうか?」

キャスターとしては、ここは真っ当な質問である。

藤富記者の答えは大体次のようなものだった。

「はい、警察によりますと、一昨日夜から僅か15時間ほどの間に4人が相次いで死亡したという結果の重大性を受けてあらゆる可能性を含めて捜査に当たっている」

藤富記者はこの他に①岐阜市では高温が続いていたのでこういう結果を予想できなかったのか?②強行犯など殺人を担当する捜査一課の捜査員も家宅捜査に加わっているーこの三点を何故今回殺人容疑なのか?という富川キャスターの質問に答えた。

私の抱いた違和感はこの会話がピッタリこないのだ。

先ず結果が重大だからと言って必ずしも殺人罪適用にはならない。例えば列車事故などで多数の死者を出しても刑法上は

「業務上過失致死」の疑いである。

何故か?

それは殺人罪を適用するには大前提として

「殺意」

という故意性が必要な要件なのだ。


殺す意思を持って殺害した。この場合殺人罪が成立する。

今回は病院で事件が起きたのだから、普通に考えて病院側が殺意を持っていたとは思えない。

勿論過去には病院や施設を舞台にした殺人事件ではないか?と疑われる事案があったこともある。しかし、今回はどうやらそういう事件ではなさそうである。

その意味で藤富記者の最初の説明「結果の重大性を考えて」という指摘はちょっと的を外している。

では殺人罪は明確な殺意の立証が無くても成立する可能性はないのか?

少し刑法を綿密に考えてみよう。

実はそういう可能性はあるのだ。

「未必の故意」

これは当事者が故意ではないが、このまま事態をを放置すれば「死亡」という重大な結果を招くと予測出来たにもかかわらず、適切な対応をしなかった場合に適用される。

藤富記者が答えた①岐阜市で高温が続いていたので、こういう結果を予想できなかったのかーに相当するケースだろう。つまり、岐阜県警はこうした事案で先ず考えられる「業務上過失致死」容疑だけではなく、「未必の故意」を念頭に捜査に臨んでいるということなのだろう。

しかし、その場合は扇風機9台でエアコン故障に対応したことをどう評価するかだろう。扇風機は「未必の故意」を捨象することになる可能性がある。

②の捜査一課の捜査員が家宅捜査に参加しているー事実は殺意の立証や未必の故意の立証には関係ない。単に捜査員の手数の問題に過ぎないからだ。

実は殺人罪適用にはもう一つの法律用語がある。

「認識ある過失」

専門家の説明だとこうなる。

「自分の行為によって違法状態に至るものと認識しながら、そういう事態は避けられると信じて行動したが、結果的には違法状態を発生させてしまった場合」

うーん、これはちょっとなぁ、病院側が違法状態を認識していたことの立証は難しいなぁ!

結果が「死亡」になった場合の問える罪は法律的には

①殺人罪

②傷害致死罪

③業務上過失致死罪

の三ケースだけである。

今回のケースは普通に考えて①②は適用は難しく、③業務上過失致死が妥当なようだ。

私が「報道ステーション」のやり取りを見て抱いた違和感は画面上にずっと出続けていた「殺人容疑」の4文字、どうやらこの辺にあったようだ。