最近小説家にしてエッセイスト、俳人の谷口桂子氏に会った。
若い頃からの友人である。

谷口氏は最近小説を小学館から出したという。その席で贈呈を受けた本のタイトルは
「越し人   芥川龍之介最後の恋人」

僕はあんまり文学小説の世界は詳しくない。というか「文学」というだけで好きになれず、僕は直木賞の世界だけで生きてきた、という思いがある。

小学三年生頃からの貸本屋さんで分厚い講談本を借り読み漁っていた。だから長じては山本周五郎、司馬遼太郎、池波正太郎、藤沢周平の作品を渉猟しまくった。

しかし、この作品は違った。
文豪と14歳年上の才女の「最後の恋人」にまつわる初めての実に深い物語なのだ。

その歳の若さにいささか驚くが、芥川龍之介は35歳で自ら命を絶っている。

14歳年上の美貌の「文学夫人」と芥川龍之介との交流を描きながら、芥川が死に傾いていく状況がしっかりとしたタッチで描かれ、文学小説嫌いの私にも満足感があった。

あとがきによると、毎日新聞記者時代の私があるカタールの人を
谷口さんに紹介した。その縁で谷口さんはカタールに渡り、ひとつの出会いがあり、それが今回の作品のスタートになっているという。
あとがきを少し引用する。

「片山廣子を知ったのは、30数年間まえのアラブの小国カタールだった。
カタールで初めての日本週間が開かれ、私はティーセレモニーの講師として招かれていた。
用意されたスィートルームに数日遅れの朝日新聞が届き、『折々のうた』に載っていた彼女の歌に目が止まった。

ーー    一つの夢満たされて眠る人の如くけふの入日のしづかなる色

海外の、しかも中東の砂漠の国で出会ったので、余計に鮮烈だったのだろう。
虚ろだった私の心に彼女の歌が沁みた」

一読をお勧めする。
読めば芥川龍之介や室生犀星、堀辰雄らが生きた濃密な世界にしばし浸れることは保証できる。