ミゾゴイは繁殖期になると日本にやって来て営巣する。普通はプロの動物カメラマンが深山幽谷を歩き回ってやっと出会えるかどうかの幻の鳥だ。棲息数は世界で2千羽とか、絶滅危惧種。
(時に見せる野生の素顔)
(ボーボーと吠えて雌を誘う)
それが意外や意外、8年前大都市の真ん中、大阪梅田の高層ビルの間の植え込みのような小さな公園に1羽の幼鳥が降り立った。まだ渡りに不慣れなせいで不時着したのだろうか。
(観客を睨み、恐怖心と裏腹の威嚇で対抗)
幼鳥だからこそ、無鉄砲にも人の世界を一寸覗いてみたくなったのかも知れない。
(そのうち人が危害を加えないと分かると、大勢の目の前で日常を取り戻す)
ところがその2年後、浜松城公園に現れたミゾゴイは番でやって来て営巣を始めた。面白いのは巣場所で、わざわざ人通りの多い遊歩道の直ぐ側。人が危害を加えないならこれほど頼もしい味方はない、とツバメのように身の安全を人に委ねることを思い付いたのだ。その後も毎年巣位置は変わらない。電車で行ける公園でのこの鳥の繁殖は、珍しさを世に問うプロカメラマンにとってはとんだ誤算だっただろう。
(雛にミミズを吐き出して与える親鳥、そのライオンヘッドは苦痛の表現かそれとも恍惚のそれか)
5年目には若い雌が後を継いで高齢雄と幼な妻のカップルが発足した。格差婚ならではの初々しい新婚生活、まるで茶の間のテレビに映るメロドラマの一シーンのよう。深山幽谷でこんな場面が演じられたことがあるだろうか。
(子守していたご褒美に、とおねだりする幼な妻。母親から独りの雌に変身する瞬間だ)
だが、次の年にはこの雌は飛来しなかったか、来て疾走したか、現われなかった。雄は方々探し回ったようだが、結局出会えず、そのうち諦めて姿を消した、と言う。ところがその年の11月、突如、乗降客世界一の新宿駅に高齢のミゾゴイが現れた。これが浜松城で連れを訪ね歩いた放浪雄の成なれの果て、と言う積りはないが、ニュース映像で見る限り身長50㎝の老人が人込みに混じって必死に何かを探しているようだった。
撮影場所 静岡県・浜松城公園(2018年7月)など 撮影 S・植木













