焚火をしたいと思い立ち、中庭でキャンプ用品を広げる。数年前に購入して使いきれなかった薪もあり、あらためて買い物に出る必要もなかった。道具が不足していたら、ホームセンターは時間帯を気にしなくても混雑することはないのだが、近隣にないことから買い物にいくのに億劫なってしまうだろう。また、ネットで注文することもできるが、早くても次の日になってしまい、日が変われば気持ちは萎えていただろう。もしかしたら、焚火をすることは決まっていたのかもしれない。
薄暗くなったころに火をつける。炎が揺れるのを見ながらアルコールを呑む。最近は、いろいろと心が揺れることが多かったのだが、そんな気持ちを一時だけ忘れさせてくれる。昔、こんな小説を読んだことがあることを思い出す。作者もタイトルも、内容も思い出せないのだが、焚火を囲むことだけは覚えている。時間をかけて本棚を探せば見つけられるかもしれないが、明日になればそんなことも忘れてしまうだろう。嫌な記憶は覚えているのに、選べるなら小説のほうがいいと願う。