私の前任クッキーICは、マレー系中国人のMr Chong、通称アチョン。彼は星の国の企業で働いていたが、勤め先の給料未払いに我慢ならず、勤め先の口座にアクセスし、未払い分の給料を自分の口座に勝手に振り込み御用となった。
この国は、コンピューター事業やIT産業に非常に力を入れているため、ハッカーに対しては非常に厳しい。入所後、自分の記事が出ている新聞を見たとき、扱いの大きさに驚いたという。
C棟担当責任者のMr Gohは所内の改革を進めていたが、アチョンがコンピューターに精通しているため、何とPC1台を2階通路に設置し、Inmateの出入り、国籍別人数の管理をさせることにした(もちろん外部へはアクセスできない)。それまでは、計算機と紙しか支給されておらず、数字に弱いICの時は、いつも数が合わずあたふたしていた。こういった場所で人数が一人でも合わなければ大問題である。
たまたま、アチョンの後任として予定されていた私もPCを扱えるため、思い切って導入となった。私としては、大助かり。プログラミングのできるアチョンに人数管理プログラムを作成させ、私が入力管理していた。キーボードを叩き数字を入力しているだけで気が紛れた。アチョンは、モニターの右隅に私の出所までのカウントダウン時計を作ってくれた。PCを起ち上げるたびに、残り時間が減っているのをみるのが楽しみのひとつでもあった。
さらに、私の後任ICとして期待されていたのが、ベトナム人のMrDong(仮名、実は名前は失念)。彼は、アチョンの上を行くハッカーである。私は知らなかったが、この国でも最も有名なハッカーであった。
日本の東大と同等の扱いを受けるこの国の国立大学の留学生であった彼は、この国の2番手電話会社のシステムにアクセスし御用となった。
彼の記事は主要新聞の1面を飾ったという。彼は、母国の奨学金で留学し、プログラミングを学んでいたが、無事卒業して帰国すれば、超エリートとして明るい未来が約束されていたのである。にも拘わらず、その全てを失うことが分かっていてもハッキングに手を出させてしまうほど、コンピューターには魅力があるらしい。まあ、わたしのような凡人には窺い知れないが...。
そういえば、彼は、ここを出れば、再び大学に戻れると信じ込んでいたが、この国はそんなに甘くありません。出所日にそのまま強制送還ですよ、Dongクン。
Mr Gohは、私の入所期間が短かったこともあり、彼にはかなり期待していたらしく、通常、残り6ヶ月にならないとクッキーにはなれないところを、彼に限っては、1年の刑期にも拘わらず、入所1週間(残り11ヶ月強)でクッキーに任命し、直ぐに私のアシスタントとした。異例中の異例である。
残念ながら、私がいる間には、彼以外のハッカーは現れなかったが、あのPCはどうなっているのだろうか。