『食堂かたつむり』の小川糸さんの二作目、『喋喋喃喃(ちょうちょうなんなん)』、四季の移り変わりの中で心を寄せ合っていく男女の物語。

 美味しいものと、伝統美が満載です音譜といっても、例えば、花冷えの夜の錫のチロリの熱燗、ざらめとしょうゆのお煎餅、黒蜜の豆かん、つくねの種を作る鶏肉を叩く音、胡麻たっぷりの舞茸ご飯。上がり框で座布団に座る近所の小母さんとか、切り絵を貼った手書きの暑中見舞いとか、貝の口に結んだ仕事着の帯とか、そういったさりげないものが切ないほど美しい。

 主人公の栞を孫のように、実は女として愛してくれるイッセイさんという老人、「好きな女をいとおしむ」しぐさが似合う、年季の入った大人の男です。素敵ですラブラブ

 デビューして一年位でしょうか、寡作なのもいいです。売れっ子になると、文が荒れる作家さんもいますから。最後がちょっと・・という気もするけれど、ストーリーより脇の描写が主題なのかも。「喋々喃々」は、男女が小声で打ち解けて話す様子だとか、好きな作家になりそうです。