物語はいよいよクライマックス PartⅡ。


描かれる第三の親子愛。


果たしていったい、真の親バカは誰なのか。(^ω^)




【登場人物】


【原作】裸足の大将 放浪日記 第1話 設定資料
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【おはなし】


以下の続き。


【原作】裸足の大将 放浪日記 第1話 その10
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◇ 旅館「東野」の男用の露天風呂。


飛び込んできた一人の若い男。


それは、この旅館に湯治に訪れている鷹司旬であった。


さやか 「あなたは、旬さん。」


合田番頭 「お前が、一体、どうして、ここへ。」


さやか 「(合田番頭に) お客さんに失礼よ。」


合田番頭 「そうやった。」


旬がいきなり土下座する。


旬 「お願いです。今すぐ、この撮影会を中止してください。


みなさんをお騒がせして、申し訳ありません。


今回の騒動の件、すべて私に原因があるんです。」


東野主人 「そりゃ、いってぇ、どういうことでえ。」


さやか 「どういうことなの。」


旬 「それを説明させていただく前に、みなさんには、もうひとつ、お詫びしなければならないことがあるんです。


私は、しばらく前から、こちらの宿に鷹司の姓を名乗り、腰痛のための湯治と称して長期滞在させていただいていましたが、実は、まったくの嘘偽りだったんです。」


合田番頭 「なんや、こいつ。


鷹司とか、何とか、名乗っとったくせに、偽名やったんかいな。」


さやか 「なんですって。」


旬 「ええ。 ずっと騙していて、申し訳ありませんでした。」


旬が深々と頭を下げる。それから、黒岩の方を向き直って。


旬 「それにしても、父さん。どうしてこんなことになっているんですか。


私に何の相談もなく。」


黒岩 「旬ちゃん、ごめんなさいね。


私もあなたに断りなく、申し訳ないとは思ったのだけど。


でも、どうしてこんなことになってしまったのか、私もよく分からないのよ。」


東野主人 「父さんだと?」


さやか 「じゃあ、旬さんは黒岩ホテルグループの御曹司・・・。」


旬 「はい。今まで隠していたのですが、しばらく前に、こちらにいる、私の父から、この旅館に滞在してその様子を報告するように、と依頼されていたんです。


しかし、黒岩の名前で宿泊するのも都合が悪く。


さりとて、他人様の名前を勝手に使うわけにもいかず。


それで、仕方がなく、母方の旧姓と、京都の実家の住所を使わせてもらっていました。


偽名を使い、長い間、宿泊をして、申し訳ありませんでした。」


東野主人 「(内輪に向かって) おいよう、母方の旧姓ってのはよう、偽名のうちに入るのかよ。」


合田番頭 「そら、もちろん・・・、」


さやか 「(確信を持って)入るわけないわ。」


合田番頭 「なんやて。」


さやか 「だって、その血が流れてるんですもの。


私としては、セーフです。」


黒岩 「そうよ。それに、旬ちゃんにも内緒にしていたんだけど、


しばらく前から、ママの本家の方から、旬ちゃんを養子に迎えたいと言うお話もあるのよ。」


旬、さやか 「何ですって。」


黒岩 「旬ちゃんも知っているように、本家の人たちには跡継ぎのお子さんがいらっしゃらないの。


それで、しばらく前から、ずっと旬ちゃんを跡継ぎに欲しいと言われているのよ。


私も、若い頃、ママと結婚する際に、養子に迎えたいという話はあったんだけど、


祖父母の代から守り続けてきたこの黒岩の名前を守る為に、あのときは辞退させていただいたの。


でも、今、あなたの代になって、状況は変わったのよ。


あなたには鷹司の血が流れているし、本家にはあとを継ぐ人がいないの。


それで、私も、黒岩の名前を考えれば、残念ではあるのだけど、日本でも由緒ある家柄を守る為に、あなたさえよければ、今回のお話をお受けしようと思っているのよ。」


旬 「そうだったんですか。


仰ることはよく分かりました。私も鷹司の血が流れている人間として、その申し出を受けないわけには行きません。」


黒岩 「そう言ってくれてうれしいわ。


黒岩の名前は私の代で消えてしまうけれども、あなたが新しい名前で頑張ってくれるのならば、パパは何も言うことはないわ。


祖父母の代に身を起こし、小さなおんぼろ旅館から始まって、叩き上げ、成り上がり者と言われながらも、親子三代かけて一生懸命頑張って、ようやく、ここまでのホテルチェーンを築き上げてきたんですけどね。


でも、あなたの未来を考えたら、こうするのが、一番いいのよ。」


寂しそうな黒岩先生。


旬 「父さん、黒岩グループのことは私に任せてください。


たとえ名前が変わろうとも、必ず私が父さんの跡を継いで、この黒岩ホテルグループの看板を守ってみせます。


叩き上げの何が悪いんですか。成り上がり者の何が悪いって言うんですか。


曾祖父母の代から汗水流して築き上げてきたこの黒岩の看板、恥ずかしいことなんてありませんよ。」


黒岩、さやか 「なんて、親孝行な・・・。」


さやか 『それにしても、旬さん。


スタイルのよい長身、


さわやかなルックス、


清潔な人柄、


由緒ある家柄、


そして黒岩グループの御曹司と、


まるで好物ばかりのコース料理。


食べられないところがないわ。』



旬 「話がそれてしまいましたが、


それで、しばらく前から、私はこちらの旅館にお世話になりながら、


皆さんのことを、いろいろと拝見させていただいていました。」


合田番頭 「なんや、要するに、スパイやったんかいな。」


旬 「はい、仰るとおりです。申し訳ありませんでした。


落馬して腰を痛めているというのも、それに対する皆さんの接し方を拝見させていただくための、真っ赤な嘘でした。」


黒岩 「みなさん、どうか、この子を責めないであげてくださいね。


今回の件を頼んだのは、私なんです。」


さやか 「そうだったの。」


旬 「そして、私は、こちらのさやかさんにずっと心を惹かれていました。」


さやか 「えっ、何ですって。」


頬を赤らめるさやか。


旬 「さやかさんの、


腰を痛めた病人を我が身のように労わってくれる優しさ、


(さやか 『それは、あなたのルックスがよく、長身で、家柄まで良さそうだったからで・・・。』)


子供たちに優しく接する豊かな母性、


(さやか 『そういえば、前に、廊下で走り回っている子供を捕まえて、親の見ていないところで、頬をつねり上げたことがあったけれど・・・。』)


ルンペンの人に根気強く仕事を教える指導力、


(さやか 『まさか、私が、トラジさんに自分の薪を割らせて、自分は仕事をサボっていたところまで見られてたなんて・・・。』)


そんな、さやかさんの素晴らしい人柄に私は心を打たれました。


そして、そのために、本来の任務と違うとは思いながらも、


あなたを、私たち、黒岩ホテルグループのエリート幹部育成コースに推薦させていただいたんです。」


さやか 「何ですって。」


黒岩 「そうなのよ。


旬ちゃんには、今、うちのホテルグループの人事部長さんを務めてもらっているの。


それでね、旬ちゃんから、この間、あなたをうちのエリート幹部育成コースにどうかって、お話をいただいたのよ。


普段、他人を褒めることをしない旬ちゃんがそこまで言うのならと思って、私は『いいんじゃない』ってお答えしといたんだけど。」


合田番頭 「せやけど、エリート幹部育成コースって・・・。」


旬 「はい。エリート幹部育成コースというのは、当ホテルグループの、主に高級リゾートホテルの支配人、また将来の取締役を育成するための特別な人材育成コースなんです。」


東野主人 「へえ、そんなもんがあるのかい。」


旬 「こちらのコースの費用はすべてグループ持ちでして、週に1度の英会話教室や、一流フレンチシェフによる料理教室、年4回の海外研修などの特別なメニューを受けていただきます。」


さやか 「海外研修?」


旬 「ええ、南仏のプロバンス地方など、世界中のリゾート地や歓楽街にある、超一流のホテルに、宿泊客の立場で一週間ほど滞在していただき、一流のホテルマンたちのサービスを体験してもらうことで、顧客の目線、顧客の視点で、一流のサービスを身につけてもらうのが、目的です。もちろん、通訳なども含めて、費用はすべてグループが負担します。


そして、研修後は、まずは当ホテルのいくつかの副支配人を経験してもらい、ゆくゆくは総支配人、取締役幹部へと昇進していただくことになります。


さやかさんの場合、研修後、お気に召さないようであれば、こちらの旅館にお戻りいただいてもかまいません。」


合田番頭 「さっきから、聞いてたら、あれこれけっこうなことを言うてるけど、こっちはこいつを引き抜かれたら、大打撃やんか。」


旬 「そうですね。


私が分析したところによれば、さやかさんがいなくなれば、こちらの旅館は、もはや、もぬけの殻。


(合田番頭 「おいおい。」)


それでは、経営が成り立ちません。


そこで、よろしければ、さやかさんの替わりとして、当ホテルグループの3名の女性スタッフの派遣を検討しています。


もちろん、彼女たちは、当ホテルグループの中でも、一流のスタッフです。


彼女たちへの支払いは、こちらで半額以上負担させていただくつもりです。


彼女たちにとってもよい経験になるでしょう。」


東野主人 「それなら・・・、悪い話じゃねえなあ。」


さやか 「そうね。このお話、進めてもらってかまわないんじゃないかしら。」


東野主人 「なあ。」


合田番頭 「(さやかに) おいおい、お前、さっき、俺と二人で力を合わせて、がんばろうって、言ったばっかりや・・・。」


ドスッ。 


その瞬間、さやかのムエタイ戦士ばりの鋭いヒジが合田番頭のみぞおちにヒットする。


膝から崩れ落ちる合田番頭。


(↑いよいよスラップスティックらしくなって来ました。(^ω^))



(以下、続く)


【原作】裸足の大将 放浪日記 第1話 その12
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