【登場人物】


【原作】裸足の大将 放浪日記 第1話 設定資料
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【おはなし】


以下の続き。


【原作】裸足の大将 放浪日記 第1話 その5
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◇ 旅館「東野」の男用の露天風呂。


東京からやって来たカメラマンたちがスポーツ新聞記者とあれこれ打ち合わせをしながら撮影の準備を進めている。


その奥では、服部一味がニヤニヤしながら、何やら話しこんでいる。


風呂の手前には白いデッキチェアが置かれており、そこに、やや露出度の高い白いビキニにオフホワイトのバスローブを着たさやかが寝転がっており、撮影まで待機している。


顔には大きな黒いサングラスをかけており、ややカンチガイしている。


ときおり、サングラスを額に押し上げて、手鏡を見ながら、入念に肌をチェックしたりしている。


事前に東京のカメラマンたちにプロのトークであれこれとおだてられて、まんざらでもなさそうである。


そのさやかの側には、東野主人と合田番頭が立っている。


東野主人 「(合田と同じ方向を眺めながら、目を合わせないで) おいよう、合田屋よう。


どうなってんだよ、てめえ。


何が、難波の商人だよ。もう二度とてめえにゃあ頼まねえからな。


たッかが、小娘ひとり相手に、こんなひでぇ条件つきつけられて、あっさり飲んじまいやがってよう。


子供の使いじゃねえんだからよう。


人がいいにも程があんだろうがよ。」


合田番頭 「せやけど、しょうがないやないですか。


お宅のお嬢さん、腹が黒いにもほどがありますわ。 マッ黒ですよ。


(話題を変えて)


それにしても。 親方の方こそ、ホンマに、アレ以上ハネてないんでしょうね。」


東野主人 「おめえもよう、あんな小娘の言うこと信じて、この俺を疑うのかよ。


ああ、いいよ。 なんだったら、あそこにいる服部の野郎に聞いてくりゃいいじゃねえかよ。


もし、違ってたら、俺があいつのかわりに、あの白い水着着て、モデルでも何でもやってやるよ。」


合田番頭 「ホンマですね。ほな、今から聞いてきますよ。」


東野主人 「ああ、かまわねえよ。武士に二言はねえ。


そのかわり、もし違ってたら、おめえがあの水着を着るんだからな。


ただ、聞きに行くのはかまわねえが、撮影の後にしてくれねえか。


今、あいつらと金の話をしたくねえからよう。


余計なこと言って、撮影が中止だなんだ言われたら、全部パーになっちまうだろ。


撮影さえ済んじまえば、正々堂々と金をブン捕れるんだからよ。


今は何が何でも撮影は成功させなきゃならねえんだ。」


合田番頭 「ほな、あとで聞いてきますわ。」


親方の説明がいまだに腑に落ちない合田番頭。



◇ 同じく旅館「東野」の男用の露天風呂。


その奥で、服部と子分のとん吉、蛾邪郎の3人が話し込んでいる。


服部 「それにしてもよう。どうにも納得いかねえんだがよう。」


いらいらしながらタバコを吸う服部。


とん吉 「何がです。」


服部 「(タバコをもみ消しながら) あの東野の連中だよ。


なんで、この仕事、あんなにあっさり引き受けちまうんだよ。


俺の読みじゃあよう。 あの条件なら、少なくとも、交渉に半月はかかると踏んだんだがよう。


たった一日で話が決まっちまいやがってよう。」


とん吉 「だから、俺が最初から何度も言ったじゃねえですか。


こんなけっこうな条件を提示したら、あいつら二つ返事でホイホイ引き受けちまいますよ、


もっと厳しい条件を突きつけた方がいいですよ、って。


ギャラはせいぜいあの半分、水着だって、手渡すのはただのヒモでよかったんですよ。


それを、アニキも、よう、人がいいもんだから。


これじゃあ、まるで盗人に追い銭くれてやるようなもんじゃねえですか。」


服部 「けどよう。 おめえの言うような条件じゃあよう、今度は逆にあっさり断られちまうだろうがよ。


いいかあ。 同じ話を何度も繰り返すがよう。


今回の仕事はなあ、とにかく、簡単に話がまとまっちゃあ、ならねえんだよ。分かるか。」


とん吉 「ええ、それは分かってるんですがね。」


蛾邪郎も深く頷く。


服部 「そのためにはだなあ。


あっさりOKされちまうような条件じゃ駄目だし、断固として断られちまうような条件でも駄目なんだよ。


あの連中が、困りに困って、しかし、断りたくても断り切れねえ、引き受けたくても引き受けられねえ、


そういう条件を突きつけて、交渉を引っ張りに引っ張って、ようやく成立させなきゃならねえんだよ。」


とん吉 「ええ。 成功報酬を別にすりゃあ、俺たちが黒岩の先生からもらえるのは日給だけなんですからね。」


服部 「そうよ。 けどよう、その日給が、また馬鹿にならねえんだ。


だからよう、交渉があっさりまとまっちゃならねえんだよ。


俺たち、一日でも長く、交渉を引き延ばすんだよ。


この仕事はだなあ、もつれればもつれるほど、こじれればこじれるほど、俺たちにとっちゃあ、うめえ汁がたぁーっぷり吸えるありがたーい仕事ってわけよ。


で、だなあ、そのために、最初におめえらと作戦会議を開いたわけよ。


あいつらがあっさりとは引き受けられねえが、押したり引いたりしてるうちに、よーうやく引き受けてくれるような条件は何かってよう。」


とん吉 「で、それがあの条件だってんでしょ。」


服部 「あれならよう、よっぽど脅したり、宥めすかしたりしなきゃあ引き受けるわけねえし、


でも、まるっきり断れないような条件でもねえ。


それで、じっくり時間をかけて、あいつらを散々追い詰めてから、ようやく引き受けさせりゃあよう。万事がうまくいってたはずなんだよ。」


とん吉 「でも、現に、あっさり引き受けられちまったじゃねえですかい。」


服部 「そこが分からん、って言ってんだよ、俺もよう。」


とん吉 「だからよう。 アニキは古いんだよ、考え方がよう。


いいですかい、アニキ。


イマドキの親子はですよう、このぐらいのこと、”屁”とも思っちゃいねえんですぜ。


世の中には、てめえの遊び金欲しさに、子供に万引きさせたり、売春させたりして、それを平ぇ気でピン跳ねするような親だっているんですからね。」


(何故か、遠くで、吸っているタバコをむせる東野主人。)


服部 「けどよう、おめえ。 よぉく聞けよ。


おめえはよぉ、いまだに独身で、子供もいねえから分からねえかもしれねえがよう、


世の親御さんってのはだな、自分の子供を、ホンットに苦労して育ててらっしゃるんだぞ。


それを、おめえよう、どこの馬の骨だか分からねえようなヤクザ者がだなあ、いきなり訪ねてきて、


たったこれっぽっちの端金(はしたがね)でよう、


(服部が両手を下に伸ばして、けっこうな数の指をパッパッと伸ばしたり閉じたりする。)


自分が手塩にかけて育ててきた娘に、こんなだなあ、


(服部が最初のヒモのような水着を懐から取り出す。)


水着を着せろって言われて、ホイホイ引き受ける親が、どこにいるってんだよ。」


とん吉 「現にいるじゃねえですか、そこに。」


首をクイとやるとん吉。


服部 「そこが分からんのだよなあ。


とん吉よう、いいかあ。


おめえも知ってるようにだなあ。 俺にはよぉ、今年18になる娘がいるわけよ。」


とん吉 「まぁた、絵里ちゃんの話ですかい。」



(服部さんの話が長くなるので、以下に続く)


【原作】裸足の大将 放浪日記 第1話 その7
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