【登場人物】


【原作】裸足の大将 放浪日記 第1話 設定資料
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【おはなし】


以下の続き。


【原作】裸足の大将 放浪日記 第1話 その4
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◇ ある部屋でさやかと合田番頭がふたりきり。


さやか 「いやよ。私、ぜったいいや。」


合田番頭 「まあ、そう言わんとやな。


あのな。 これはうちの旅館が伸るか反るかの瀬戸際なんや。


(水着を握って力説する合田番頭。)


どうしても、これを引き受けてもらわなあかんのや。


お前がこれを引き受けてくれたら、この旅館にとってもええ宣伝になるし、この旅館だけやなく、この温泉街の旅館それぞれに、けっこうな補助金が出ることになるんや。


な、親方のためにも、他の従業員のためにも、この温泉街全体のためにも、ここは一肌脱いでくれへんか。


これはお前にしか頼めんことなんや。頼むわ。」


さやか 「ぜったいいやよ。


なんで、私がそんな水着を着て雑誌のグラビアに出なきゃいけないのよ。


第一、何よ、それ。


ただのヒモじゃない。


番頭さんが着ればいいんだわ。」


合田番頭 「いやいや。俺が着たって誰も見んやろ。


俺かて、自分が着てこの旅館が立て直せるなら、喜んで着てみせるわ。


せやけどなぁ、この仕事はそうはいかんのや。


お前みたいな、若くて、美しい、女性が着な意味ないねん。」


さやか 「絶対にいやです。


第一、


私自身には、何のメリットもない。


そうでしょ。」


ちらちらと時計を見つめる合田番頭。


時計はそろそろ14時30分である。


合田番頭 『時間がないやないか。15時までに話をまとめんといかんのに。こうなったら仕方ないわ。』


やむを得ず、隠しておいたカードを切る合田番頭。


合田番頭 「そら、残念やったな。


あまり金のからんだ話はしとうない、そう思うて、あとで言うつもりやったんやが。


実はな。 お前が、この仕事を引き受けてくれたら、お前個人の懐にもこれだけの金が、


転がり込むことになっとるんや。」


指を広げてみせる合田番頭。


(↑東野主人が指示したときより、指の本数がさらに1本少なくなっている。)


冷静に合田の指の数を数えるさやか。


さやか 「まさか、たったそれだけで私を脱がせるつもり?」


冗談じゃないわ、と首を横に振るさやか。


金額次第ではまんざらでもなさそうである。


合田番頭 「ほしたら、これじゃあ足らん、言うんか。」


さやか 「最低でも、これぐらいはいただかないと、


お話にならないわ。」


合田番頭の指を、2本持ち上げるさやか。


合田番頭 「おいおいおい。そら、何ぼなんでも、ないやろ。


だいたい、そんな金、どっから出てくるんや。


服部の野郎に金の交渉でもするっちゅうんかい。


そら無理やぞ。この金はなぁ、あくまでも県の助成金から出る金なんや。それを吊り上げようなんて。


なんちゅう女なんや、お前は。」


ほとほとあきれ果てる番頭さん。


しかし、冷静なさやか。


さやか 「大丈夫よ、番頭さん。


あなたの取り分から、


取り崩せばいいんだから。」


合田番頭 「(ぎく。) なっ、何の話や。」


さやか 「難波の商人ともあろうあなたが、


ただでこの仕事を、


引き受けるわけがない。


子供が考えても分かる話だわ。」


自らの冷静な判断にうなづくさやか。


合田番頭 「いや、けどな。 それをお前が持っていってしもうたら、俺の取り分がなくなってしまうやないか。」


さやか 「と言うことは、


これがあなたの取り分。」


カニのように2本指をちらつかせるさやか。


合田番頭 「あっ、いや・・・。 はは、かなわんな。


(開き直る合田番頭。)


せやけど、それで分かったやろ。


もし、お前がそんなに取ってしもうたら、俺は取り分がなくなって、これの交渉をする意味がなくなる。


そうしたら、この話もなくなってしまうやないかい。


せやから、これで折れとき。


そしたら、丸くおさまるやないかい。」


指を1本戻そうとする合田番頭。


さやか 「その必要はないわ。」


合田の指を元に戻すさやか。


合田番頭 「何でや。」


さやか 「だって、あなたには、


ハネた分があるじゃない。」


合田番頭 「(ぎく。) ハネたって、何をハネたっちゅうんや。」


さやか 「とぼけなくてもいいのよ。


難波の商人ともあろう、あなたが、


ハネないはずはない。


子供が考えても分かる話だわ。」


合田番頭 「なんちゅう疑いをかけるんや。


そもそも発想が貧しいわ。


とにかく、俺はこれ以上一歩も引かんからな。」


さやか 「あら、いいの。時間切れになっちゃうわよ。


さっきからしきりに時計を気にしてるようだけど。」


合田番頭 「(ぎく。) 何の話や。」


時計が刻一刻と過ぎていく。まもなくタイムリミットの15時である。


合田番頭 「分かった、分かった。


まったく、なんちゅう女や。


ならそれでええわ。


ほな、これで商談、成立や。な。」


指を2本伸ばす番頭さん。


合田番頭 「まったく。親子そろって、なんちゅう金に汚い奴らや。」


自分の指を曲げたり伸ばしたりする合田番頭。


さやか 「”親子そろって”、金に汚い、


ですって?」


合田番頭 「それがどうしたんや。


あっ!」


さやか 「つまり、


お父さんもハネている。


じゃあ、


もっといけるじゃない。」


冷静に合田の指を伸ばすさやか。


合田番頭 「おいおい。もう指が足らへんやないか。」


さやか 「番頭さん、


左手がお留守になっているわ。」


合田の左腕をつかんで、指を伸ばすさやか。


合田番頭 「けどなあ、そらホンマにやり過ぎやで。


親方も、実の娘を騙して、そこまで取るわけないやろ。


これがホンマや。」


正直に、親方の取り分として1本だけ指を伸ばす合田番頭。


合田番頭 「正直なところやで。」


後ろ頭を掻く番頭さん。


さやか 「まさか、あなた、


それがホントの取り分、


だと思ってるんじゃないでしょうね。」


合田番頭 「へっ?」


さやか 「あなたの目の前で指一本。


ということは、


少なくとも、その前に、これぐらいは・・・。」


合田の左腕の指をもう一度伸ばすさやか。


さやか 「これが商売、


というものじゃなくて。


難波の商人さん。」


冷静に微笑むさやか。



(以下に続く)


【原作】裸足の大将 放浪日記 第1話 その6
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