鳥飼茜先生の二冊同時発売。
片やモーニング・ツー、片やBE LOVEなので、読者層も違いますし普通は売り場は分かれています。
75点。
おんなのいえ3巻
鳥飼茜
講談社 BLKCDX
30目前で同棲相手に別れを告げられ、傷心のまま東京にて妹のすみ香と新たな生活を始めた大前有香。
有香の要であった川谷という男の意図。
片やモーニング・ツー、片やBE LOVEなので、読者層も違いますし普通は売り場は分かれています。
ただ、どちらも面白いので並べて売れば相乗効果がありそうだなぁ、と思いました。
セックスはいつだって
男のせいって思ってますか
モーツーでの最新作、これがかなり来ている作品です。
主人公は24歳高校教師の原美鈴。
目立たぬ容姿で、常に損な役回りばかりで生きて来た美鈴。
心を殺して生徒を冷徹に見守り続ける日々。
そんな、機械的でありながらも平穏な日々に、突如変化が訪れる。
友人・美奈子の婚約者である早藤。
彼の存在が、美奈子の日常を変質させる。
彼と美鈴の間に横たわる、浅からぬ因縁とは――
一方、クラスの女子から「童貞」とアダ名される大人しい性格の男子・新妻は、人妻との不倫関係が噂され――
そんな二人、女教師と男子生徒が織り成す性を巡る会話の鋭さに、読んでいる側は抉られて行きます。
古谷実先生が帯を書いているのも、巻末の「擦り減らしてます」という作者コメントも、読めばとても納得です。
心を揺さぶる心理描写に長ける鳥飼先生。
その能力をこっち方面に傾けて来たかぁ、と。
高校生のヒエラルキーや、本音と建前、陰口なども痛烈。
リアルな描写の積み重ねと吐露される想いの黒さは、まるで切れ味の悪い刃物で何度も斬りつけるように、ジクジクと痛みを与えて来ます。
話を読み進めるごとに衝撃的な展開をして行き、最後に今後を暗示するような描写があって、2巻目がとても楽しみです。
けれど、読むと少々、人によってはかなり鬱々とするかもしれません。
ただ、この問い掛けによる陰鬱さは、人の在り方に対して真摯に向き合った文学的なそれであり、好きな人には称賛される類のもの。
重い話、痛い話、性について論ずる話が好きな人にはお薦めです。
75点。
おんなのいえ3巻
鳥飼茜
講談社 BLKCDX
好きっていうか 愛されたい
私だって愛されたい
30目前で同棲相手に別れを告げられ、傷心のまま東京にて妹のすみ香と新たな生活を始めた大前有香。
しかし、有香と妻帯者の川谷との関係を勘繰って喧嘩となり、すみ香はゲイの友人であるマコちゃんの家に転がり込む。
自分の人生にお見合いなどというものが、と苦笑混じりだったものの、その相手が弁護士と聞いて、手取り12万円でガスの支払いの督促にすら悩む有香の心は大いに揺れ動く――
生活に不自由せず、好きに友達と旅行にも行ける、そう考えると結婚って何と素晴らしいものか、と考える有香。
生活に不自由せず、好きに友達と旅行にも行ける、そう考えると結婚って何と素晴らしいものか、と考える有香。
懐事情も知らずに海外旅行に誘って来る友人の誘いに苛ついてしまい無碍に断った有香にとっては、金銭の自由によって生まれる心の余裕が非常に大きいもの。
有香の窮状を切々と描いて来ているだけに、打算的な結婚への誘引も致し方ないものと思えてしまいます。
有香の要であった川谷という男の意図。
私は理解も共感もします。
ただ、それだけに有香の辛さも際立ちます。
なりたい自分と、そうなれない自分の乖離。
その苦悩は、恋愛というテーマを超えて誰しもの胸に響く普遍的なものでしょう。
一つ一つの心情描写や言葉が丁寧なのがこの作品。
今回も
「誰かのための誰か」なんて
「誰かのための誰か」なんて
どこにもいないのかもね
それは私を
なぐさめるようであり
つきはなすようでもある
ただその言葉は
ほんの少し
私をすくった
といった節が印象的でした。
そう、人はそんな言葉でも救われるんですよね。
今巻はかなりシリアス方面に傾いており、今までのように深刻な中にも現れる関西人ノリのユーモラスさや、美味しい食事メニューなどが成りを潜めてしまったのは個人的にはちょっとだけ残念ですが、十分以上に面白い作品である事は確かです。
70点。