病室で念仏を唱えないでください 1
こやす珠世

今でも目の前の命を救えないもどかしさがすごくある…
だから変えようがねぇんだ、この生き方は



ドラマ「相棒」のコミカライズを手掛けたこやす先生の最新作です。

仏教を説く医者、袈裟で病院内を徘徊する主人公・松本の物語。

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タイトルや冒頭のシーンからコメディタッチな作品なのかと思いきや……

読み進めてみれば、「バイタル」「フラット」「VF」「DC」など、専門用語もバンバン飛び出す本格的な医療ドラマでした。

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過去に起こってしまった悲劇が原体験となり、目の前の命を救うことにに全身全霊を懸けて臨む松本。

病気や事故に遭って運び込まれてきた患者とその家族との関り合い。
鬱病や脳死など様々な深いテーマにも触れ、医者という職業の大変さを感じます。

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そんな中で、松本は仏教の言葉を引用して、悩み苦しむ人々に教えを説いて行きます。

如実知自身背暗向明――
苦しみや困難を背にして
希望に向かって歩け!!


や、

死は我が欲するにあらざれども、因業の鬼我を殺す…
「生まれてくる事も死にゆく事も自ら望んだ事じゃない…」か…
だけど、自分の生き方は自分で選んで
自分で見出せるじゃないか。


といったシーンは、心に響きます。

しかし、かく言う松本自身もまだまだ至らない点があり、救うこともあれば不用意に傷つけてしまうこともあり、成功もすれば失敗もする普通の一人の人間。
時には自らも思い悩むその万能感の無さが、逆に共感を生みます。


宿直室でお経を上げて患者さんを怖がらせてしまうシーンなど、ギャップによるコミカルさも良い緩急を付けていて面白いです。

読んでいて、確かにお坊さんと関わる機会って普通に暮らしていれば殆ど葬儀位のものだな~、と。
病院にこんな医者がいたら縁起が悪いと感じてしまうかもしれませんね。
元々は医療行為も僧侶が行なっていた、というのはRPGフリーク的にはすんなり受け入れられるお話ではありますけれども。


全体的に良く出来ていて、大人も楽しめる上質のドラマになっています。
若干の恋愛要素もあり、色んな人に引っ掛かる部分がありそうです。
遠くない未来に実写化されそうな予感がしますね。

医療モノが好きな方、心の修行・ケアをしたい方にお薦めです。


75点。