もう一度嵐の海に飛び込んで次の島に向かう理由を僕は
もうすでに何ひとつ持ってなかった
今年最初の箚記は「ハチミツとクローバー」の羽海野チカ先生がヤングアニマルで連載中の将棋漫画。
このマンガがすごい2009で4位、2010で16位、2011で20位。
と~~~~っても面白いです!
これをチラ見して積んでいた自分の愚かさがちょっぴり恨めしい。
将棋もしっかりやっていますが、そこは矢張り羽海野先生。巧みな心理描写によるビルドゥングスロマンの趣が強い印象です。それ故、将棋が分からない人でもドラマとして楽しめます。
現在進行形の話と並行して少しずつ挿入される回想により、主人公が置かれている状況や心情が明らかになっていく手法も嵌っています。
絵柄は優しいのですが、タイトルが暗喩するよう吹き荒れる感情の奔流がまるで春の嵐の如く激しい作品。
絵と文字の情報量が非常に多い作品で、登場人物が皆、己の抱えている物を曝け出しぶつけ合っている様は心に突き刺さりつつも、どこか心地良い。吐露する事のカタルシスか。
生涯を将棋に捧げ、破れて引退を迫られた老人に「将棋 好きですか」と問うた時の涙ながらの返答。
勝った時は叫びたい程嬉しくて
負ければ内蔵を泥靴で踏みにじられたように苦しくて
世界中に「生きる価値無し」と言われたような気持ちにさいなまれた…
なのにっ……それなのに辞められなかったこの気持ちを
そんなっ 言葉なんぞで 言い表せるものかっっっ
痛切に胸に響きます。
年代・性別を問わず、読む価値のあるドラマチックな作品。
オマケの幕間の将棋コラムも読み応えがあります。私自身は子供の頃に趣味でNHK将棋講座を観ていた程度で、3手詰めの詰将棋でも時間を使って考えてしまうレベル。それより難しいのは解ける気がしないです(笑)
80点。