主の帰りはいつも大体夜の8時近くだ。
吾輩は人間が使う時計というものは理解ができないが
しっかりとした体内時計を持っているので、今が何時どきなのか
何も見ずとも自然とわかる。
だから今日もまだ主が帰ってくる時間には早かったので
吾輩は主のベッドで気持ちよく寝ていたのだが、いつもより早く
主が帰ってきた。
寝入りばなを起こされて少々機嫌は悪かったが、首をあげて
音のするほうを覗き込むと、帰ってきたのは主だけではなかった。
「あ、ノブナガくん、寝てる?」
「にゃ~ (野島殿ではないか)」
たまにこの家へとやってくる野島殿のことを、吾輩は気に入っていた。
ほとんど遊んでくれなくなった主と違って、家に来た時は必ず遊んでくれる
ことも、さることながら、猫の扱いに慣れている節があり、なでるときも吾輩
の気持ちのいいポイントを的確についてくる。
オスとメスの種別の違いだろうか、野島殿の指は細く、力加減もちょうどいい。
「ノブナガ、お前俺にだってそんな顔滅多に見せねぇくせに
なんだよ、その嬉しそうな顔は」
ゴロゴロゴロゴロ・・・・
おっとのどが鳴ってしまった。
主と野島殿はダイニングテーブルに腰かけ、酒を飲み始めた。
人間というものはどうしてあんなまずいものを喜んで飲むのだろうか
昔、まだ吾輩が子どもだったころ、好奇心に駆られて、主の飲む酒を
少しなめたことがあるが、あんなものは飲むものじゃない。
一口で舌がしびれ、胃が躍った。これは毒薬だ、と体が警告を発した
のを、今でも覚えている。
野島殿の膝の上に飛び乗る。野島殿の膝の上はお気に入りだ。
主と違って、ふわふわで柔らかい上に、温かくて心地よい。
たまに思い出したようになでてくれる手も好きだ。
野島殿もここに住めば良いのにと、本気で思うことがある。
しばらくそのまま酒を飲んでいた主と野島殿は夜中の1時過ぎになると
どちらともなくそわそわしだした。本人たちは表に出さないので、おそらく
気付いていないだろうが、吾輩はそういう気配に敏感だ。
そうなると、今までの経験からすると、間もなく交尾が始まる。
人間というものは面白いもので、発情期というものが無いらしい。
言ってみれば、発情するポイントがわからないのである。
これはなかなかに面倒なことだと、吾輩は思う。
交尾というものは子孫を残すための行為であって、そのために
発情期があるのだが、発情期がないとなるとどうだろう。
いつ発情するかわからないと、自分が発情したとしても、相手が
発情しているかどうかわからないのではないか。
そもそも発情期でもないのに交尾をするというのは、吾輩には
理解しがたい。子孫を残すため、というよりは、行為を行うという
ことを目的としている節があるのだ。
しかも、その行為がやたらと長い。吾輩に言わせれば、あんなものは
すぐに終わらせてしかるべきものなのに、やたらと長いので終わった後は
二人ともぐったりしてしまう。あれではまるで疲れるためにしているような
ものではないか。
人間というものは不思議なものである。
「にゃ~ (そろそろ交尾するのであろう?)」
「どうしたの?ノブナガ君」
「・・・にゃう (ご苦労なことで・・・)」
「なに?そんなに甘えて。あたしのことそんなに好きなの?」
「にゃ~ (お疲れ様、と言わせてもらおう)」
野島殿の膝から降りる。
ベッドはおそらく二人が使うのであろう。吾輩はソファで寝るとするか
「どうしたんだろ?急によそよそしくなっちゃった」
「ノブナガはたまに何考えてるかわかんねぇからな
それより、お前帰りはどうすんだ?もう電車もねぇだろ」
「今日は泊ってくよ。シャワー貸してね」
「あ、そ・・・」
人間というものは、ホントに不思議な生き物である。