※ザウデでユーリがいなくなった後です!ネタバレ。





きっと彼は大きな落ちた魔核(コア)の向こうにいる。エステルはそう信じていた。みんなもそう信じていただろう。


だが、予想に反して彼はいなくなっていた -------。









~わたしのそばに~



ここは帝都ザーフィアスのお城にあるエステルの部屋。そこでエステルは静かに泣いていた。


傍らには『彼』の相棒犬のラピードが丸くなっていた。


じっとしたまま動こうとしない。だが、ラピードの鋭い瞳はずっとエステルの方を見ている。ただ、見ているだけだが。


ハンカチで拭っても、拭ってもポロリポロリと涙は止まることを知らないかのように流れてくる。


泣きながらエステルはずっとある人を頭に浮かべていた。


あの時からいなくなってしまったエステルの大好きな彼、ユーリの事を。


「どこいっちゃったんですか、ユーリ ・・・」




彼に会いたい。




彼と話したい。





・・・・・・彼が愛しくて仕方ない。





ユーリはあの時海に落ちたのだろうと周辺の海の全域をすべて探した。






だけど見つからなかった。どれだけ探しても。ユーリが見つからず、早くも3日経った。だがエステルにとって3日経つのが亀の歩みのように遅く感じた。






もしユーリが動けなくなっていたら。


もし大怪我をしていたら。


もし・・・死んでしまっていたら。






そう思うとまた涙があふれてきた。ああ、せっかく止まりかけていたのに。


「ユーリっ、ユーリっ、会いたいです・・・どこにいるんです?怪我して動けないんです?死んでなんか・・・っ、いないですよね・・・・・・わたし、信じてます。きっと、きっと生きているって」


エステルは無理矢理涙をぬぐった。目から降ってきていた涙の雨はやんでくれた。エステルはそのまま少し赤くなった目でラピードを見つめ返した。


「ワフッ」


たった 一鳴き、ラピードが丸くなったまま鳴いた。当たり前だ、と言うかのように。しかし、鋭い瞳がすこし柔らかくなった気がした。


気のせいかもしれないが。


と、急にラピードが耳をぴんと立てて立ち上がる。


「?」


そしてラピードはドアの前に立ち、「ワン」と一鳴き。それからドアノブを前足で器用につかもうとする。


「開けて、欲しいんです?」


もうだいぶ暗くなっている。どうしたのだろうか。エステルも立ち上がり、ドアの傍にかけより ドアをそっと開ける。


ラピードは待ってましたとばかりにエステルの部屋を飛び出す。


「え?ラピード!どこに行くんです!?」


そう言われてラピードは少しだけ待ってくれる。エステルが追いかけ始めるとラピードはまた走りだす。


見失わないように追いかける。道を歩いている騎士にぶつからないように上手くすり抜けてゆくラピード。驚いている騎士に謝りながらエステルは城の入り口で待っているラピードに追いつく。


「どうしたんです・・・?」


「ワン!ワンッ!」


今のラピードは珍しく何か焦っている。早く開けてくれ、早くしてくれとエステルは言っている気がした。


「何かあるんですね。分かりました」


大きな扉を開くとまたラピードは駈け出した。ただし、エステルでも追いかけられるスピードで。エステルを密かに気遣ってくれているのだろう。


「(ありがとうございます、ラピード)」


エステルはラピードに心の中でお礼を言った。そしてラピードをまた追いかけ始めた。


貴族街を抜け、市民街も抜け、たどり着いたのは下町。中心のある噴水を通りすぎ、立ち止ったのはユーリの部屋へ向かう途中の階段の前。


「ワウ」


ラピードが何か見つけたようだ。なんだか嬉しそうにしている気がした。階段の下で黒い影が動いている。


「どうしたんです、ラピード?」


目を凝らして階段の下を見る。どうやら人らしい。その人が話しかけてきた。


「ラピード?エステル?」


「え・・・!」


その声は間違ない。あれは、あれは大好きな彼の声だ!


「ユーリっ!」


エステルはラピードと共に走って階段を下り、大好きな彼の胸に飛び込んだ。


目にうれし涙を浮かべて。




              信じてた 彼が帰って 来ることを


               いつまでもいて わたしのそばに

                                              ~End~


※ユリエスでED後です!


花の街ハルルの元、結界魔導器(シルトブラスティア)の大木の下に子ども達と一人の少女が座っていた。


「黒い男の子は一緒に旅してきた仲間とともに悪い魔物をやっつけました」


少女は子ども達に絵本を読んで聞かせていた。聞かせているのは自分で作ったお話しだ。


ちなみに、お話しはちょうどおしまいの所だ。


「こうして世界に平和が戻り、またみんな楽しく暮らしましたとさ。めでたしめでたし」


絵本をそっと閉じると子ども達がパチパチと拍手をしてくれる。


「どうでしたか?」


少女、エステルが感想を聞いた。


「凄く面白かったよ!」


「黒い男の子がかっこいいな♫」


「世界が平和になって良かった!」


などなど。ちなみにこの本、エステルが初めて描いた絵本だ。


「あ、そろそろ帰らないと!また絵本読んでね!」


「バイバイ!エステルお姉ちゃん!」


「はい、またねです!」


子ども達がいなくなるとあんなににぎわっていた辺りが静かになった。エステルも立ち上がり、


「私も帰りましょう」


と呟いたその時、ガサガサと茂みが揺れたかと思うとそこからいかにも怪しそうな男が2人、出てきた。どちらも黒っぽい服を着ていていつも日の光を避けていそうな二人だ。


「今の話、いいねぇ。気に入っちゃったよ」


「そ、それはどうも・・・」


逃げないと危ない。そう感じてその場を立ち去ろうとしたが話しかけてきた男と違うもう一人の男に手をガシリ、と掴まれてしまった。振りほどこうとするがやはり相手は男。勝てるはずもない。


「離して下さい!」


「こっちへ来い!」


「イヤです!」


攻撃出来れば良かったのだがエステルが得意なのは治癒術。他の術は上手く調節できない。剣も部屋になおしてある。何も出来ないままずるずると茂みに引きずられてゆく。


「(誰か・・・助けて下さい!)」


エステルが心の中でそう叫んだときだった。


「俺のお姫さんをどこへ連れて行く気だ?」


エステルにとっては聞きなれた声。別の言い方をすればエステルが大好きな彼の声。


「ユーリ!」


向こうから歩いてきたのはたまたまエステルの所へ遊びに来たユーリ。エステルがユーリの後ろに隠れる。



「何だ貴様!」


「その本の中で言う、『黒い男の子』かな」


二人の男は顔に眉間を寄せる。そして腰にさしている短剣を抜いた。


「ふざけやがって」


そしてユーリに斬りかかった。数的にはユーリの方が不利だが、強さでは二人を上回っていた。その証拠にユーリは剣を抜かずに自らの拳だけで相手をしていた。


「三散華!」


一人の男を三回殴る。魔導器がないのであまり力を込めて殴れなかったが、それでも男は倒れた。まずは一人目。しかし、まだもう一人残っている。


技の隙を狙われた。もう一度三散華を繰り出そうとした男の方を向くと、短剣を両手でしっかり握りしめて突進してきた。


「おっと!」


ユーリは体をひねって短剣をかわしたが頬に刃が当たり、赤い線が引かれた。少し深かったのかに血が頬をつたり、顎まできて地面にポタリ、と落ちた。


「ユーリっ!」


「・・・っち!平気だエステル!」


慌てたエステルを制し、気味の悪い顔を浮かべている男を睨みつける。毒が塗られていない事を願いつつ、残っている男に電光石火で近寄り、拳を男の体に沈ませた。男はうめきながらその場でうずくまる。


「まだやるのか?」


まだまだ余裕のユーリ。それに反して二人の男はもうボロボロだった。


「くっ・・・覚えてろ」


お決まりのセリフを吐いてよろよろとした足取りで逃げて行った。ユーリは服の袖で乱暴に血をぬぐい、エステルに向き直る。


「無事だな」


「はい、大丈夫です・・・」


「そりゃ良かった・・・ってなんで泣くんだよ」


突然泣き始めたエステルの頭をユーリはそっと撫で、自分へ抱き寄せる。


「怖かったか?」


ユーリが問うと、エステルはこくり、と頷いた。確かにユーリが助けに来なかったらあの男たちにどこかへ連れて行かれていただろう。何をされるかもわからなかった。


「怖かったです・・・」


ユーリの服をギュッとつかむエステル。そんなエステルの頭をユーリはそっと撫でながら


「とりあえず、お前の部屋へ戻るか。それでいいか?」


と、うながすと、エステルはもう一度こくりと頷いた。





「落ち着いたか?]


ユーリが買ってきたというイチゴの香りがする紅茶を飲み、エステルは落ち着いたようだ。


「はい、ありがとうございます」


「気にすんな。そりゃ、あんなにあったら怖がらないワケがない」


エステルが差し出したクッキーを食べながらユーリはそう言った。


「でも、またあの人たちが来たらどうしましょう・・・」


「その時はまた相手してやる。もしエステルがあいつらに連れてかれても絶対見つけ出して助けてやるよ。だから安心しな」


ユーリの言う事は何故かとても安心できる。


「はい!」


だからユーリに元気に返事した。そしてユーリの顔の傷を見た。血は止まっていた。毒も塗られていなかったようだ。


「そういえば、まだあの時の傷を治していませんでした。ユーリ、顔を近付けて下さい」


「こんな傷、あっという間に治るって」


ユーリはちょっとした怪我では治させてくれない。


「じゃあ・・・さっき助けてくれたお礼、ってことにして下さい」


と、二コリとエステルが笑えばユーリも断れない。


「へいへい。了解」


しぶしぶエステルの前に顔を近づける。エステルはユーリの顔の傷に手をかざす。その手から光があふれ、光が消えた後には傷は消えていた。


「やっぱすげぇな。サンキュ」


去って気まで傷があった頬に触れながらユーリはエステルに礼を言った。


「いいえ、お礼を言うのはわたしの方です。助けてくれてありがとうございました、ユーリ」


「ああ、無事で良かったぜ。エステル」


ユーリはエステルの頬に軽く口づけた。


「ユーリ・・・」


キョトンとした顔でユーリを見つめるエステル。


「連れて行かれなくて良かったぜ。愛しいお姫さん」


愛しい人が目の前から消えたのならどこに行ったって探してやる。


そう思いながらユーリはエステルをそっと抱きしめた。



俺の手で どこへ行っても 救い出す


だから待ってろ 俺の姫さん              ~End~


「断空牙!」


最後に残っていた鳥型の魔物を地面に殴りつけるようにしてたたき落とす。


たたき落とされた魔物は悲鳴じみた鳴き声で鳴きながら地面でジタバタしていたがマオが放った炎の術で魔物は燃やされ、焦げた魔物は全く動かなくなった。


「これで全部か?」


焦げた魔物の悪臭と戦っている時に負った傷の痛みに顔をしかめながら辺りを確認する。


「・・・今は安全だな。ほら、大丈夫か?おチビさんよ」


疲れて座っているマオに手を差し出す。


自分も疲れていたがとりあえずここに長くいるとまた魔物が現れるかもしれない。


今また現れても戦う気力がない。


「・・・うん」


マオは頷き、オレの手を使って立ち上がる。だが、突然「うっ」と声を詰まらせてまた座りこむ。


「どうしたんだよ?」


オレもしゃがみ込むとマオの足から血の匂いがする。


マオは慌てて足をオレから遠ざけようとしたがその前にマオの両足をがっしり捕まえた。


「ケガしてるな?」


よく見ると右足の足首当たりが血で赤く染まっていた。今、座りこんでしまったのはそれが原因だろう。

「ユーリ」


「ん?」


「ごめんネ・・・」


突然謝られて驚いた。だが、マオは何一つ、悪いことをしていない。


「オレに謝らなくていい。悪いのは襲いかかって来た魔物だ」


そっと頭をなでてやるとふわりと笑ってくれた。


それから無理矢理立ち上がろうとするが足のケガが痛むのだろう。立ち上がれない。


「そんなに頑張って立とうとすんなよ。傷が深くなるぜ・・・ほら、乗れって」


おんぶする体制になると、ゆっくりマオはオレの背中に乗って来た。


こっからだとマオの家まで5分程度。後もう少しだ。


「もうちっと我慢してくれ。すぐお前の家に向かうからよ」


「りょーかい。ユーリはケガ、だいじょーぶ?」


「平気だ。これぐらいすぐ治る」


痛くない、と言えばウソになるがマオのケガの方がもっと痛いだろう。オレはマオの家に急いだ。

















「ほら、着いたぜ。ドア、開けるぜ・・・ってマオ?」


何ひとつ返事しないマオを見ると、すぅすぅ眠っていた。ケガで苦しそうにもしていなくて穏やかに眠っていた。


「ったく。寝るなら寝るって言ってくれよな」


オレは少しホッとしてマオのポケットに手を突っ込み、鍵を取りだす。鍵穴にそれを差し込んで回そうとしたが驚く事に扉は空いていた。


・・・マオがしめ忘れたのか?


疑問に思いながら扉を開けるとそこには意外な人物。


「!先生・・・」


知り合いに会って話をしていたユージーン先生。


「ユーリか。すまなかったな、マオを頼んで」


「いや、オレも暇だったから」


今日は学校が休みだったのでブラブラと散歩しているとある店の中で誰かと話している先生を見つけた。

先生は俺に気がつくと手招きして俺を呼び、『席にいるマオを連れて帰ってくれ』と頼んで来た。

断る必要も無いのでマオの座っている席を教えてもらい、行ってみると机に突っ伏して眠っているマオとマオに困っている定員を見つけた。

店員にワケを話し、先生に渡されていたガルドを支払ってマオを背負って店を出た。


・・・その後、あの魔物らに 襲われ、撃破して、そして今の会話に至る。

「あ、それより、マオの足を見てやってくれ。途中で魔物に 襲われて、な」

マオを背から降ろし、靴を脱がす。血は止まっていたものの、鋭い爪か牙で切り裂かれたよううな傷が見ていて痛々しかった。

「一日二日では治らん傷だな。ユーリ、すまんがエステルを呼んで来てくれないか」

「分かった」

「それと、治すのはマオだけでなくお前だぞ。右手、怪我しているだろう?」

「!・・・はい」

やっぱりばれてたか、と胸中で思う。でもま、隠すつもりはなかったんだがな。


ふぅ、と息を吐いてオレはエステルを呼びにマオの家を出た。














運がいい事にエステルは家にいてくれた。新しく買った本を読んでいたらしい。


オレは簡単に事情を説明すると急いでマオの家へと急ぐ。


「マオのけが、そんなにひどいです?」


走りながら心配顔のエステルが聞いてくる。


「たしかにひどいがあいつの怪我は足だけだ。命にかかわる事じゃねーよ」


あの周辺にいる魔物は毒を持ってはいない。だから、突然体調を崩したり発熱する事はないだろう。


「良かったです ・・・それより、ユーリは怪我、大丈夫です?」


「平気だよ。オレは後でいい。それより、急ぐぞ」


「はい!」


俺らの背後の空は赤い燃えるような夕日が広がっていた。















帰って最初に聞いたのは先生の声ではなかった。


「おかえり♪」


「お、マオ、起きたんだな」


最初に聞いたのはまだ眠そうなマオのおかえりだった。目もまだトロンとしているが少し眠って元気が戻って来てるようだ。


「マオ、怪我した所を見せて下さい」


「は~い」


怪我している右足をエステルの前にもってくる。オレがエステルを呼びに行っている間、拭いたのか洗ったのだろうか。こびりついていた血は綺麗に取れて傷口がよく見えるようになっていた。


「じっとしてて下さいね・・聖なる活力、ここに。ファーストエイド!」


キラキラと輝くの光が傷口に吸い込まれたかと思うと傷は跡形も無く消えた。


「ありがと!エステル♪」


にこっ、と笑うマオを見てエステルも釣られたように笑う。


「すまない、エステル。助かった」


先生が丁寧にエステルに頭を下げる。エステルは先生に頭を下げられて少し驚いたものの、


「いいえ、怪我を治せてあげる事が出来て良かったです」


と、微笑んだ。それからエステルはこちらを向き、


「ユーリもけがをしたところを見せて下さい」


「腕、ケガしてるんだヨネ」


先生が教えたのか、それとも自分で気がついたのかマオが右腕の服の裾をあげる。


「痛っ!お前、ちと乱暴すぎだろ」


「気のせいダヨ♪・・・あっ、ココ、だネ」


マオほどひどい怪我では無いが、爪でひっかかれたような傷があった。


「マオ、ユーリの腕、押さえていてください」


「りょーかい」


二人の会話にオレは聞こえないように一言


「オレは子どもじゃねーよ」


と、呟いた。













「じゃあ、そろそろ帰りますね」


あの後、暫く話しこんでいたが、そろそろ帰らないとならないというエステルの言葉でお開きとなった。


「オレもそろそろ帰るわ。エステルは俺が送ってくよ。もう薄暗くて危ねぇからな」


「うむ。頼む」


「バイバイ、ユーリ、エステル!また明日ネ!」


「はい!」


「おう!」


マオはオレとエステルが見えなくなるまで大きくなるまで、大きく手を振ってくれていた。















エステルを家まで送り、自分の家に帰ると、一匹で留守番していてくれていたラピードがいた。


「今日は色々あって遅くなっちまった。悪かったな、ラピード」


「ワン、ワン」


「ん?マオとエステルの匂いがするって?ああ、会ったんだよ。特にマオはおんぶしたしな。詳しくは飯を食いながら話すよ」


ふと時計を見ると、ちょうど6:30を指していた。お昼を食べたのが12:30だった。あれから何も食べたないから流石に我慢できるオレでも腹がぐーぐーと鳴っている。


オレはまだ平気だが、ラピードはそうはいかないだろう。


「待ってろよ。今、用意するから」


ラピードの頭を撫で、今日は一日長ったとラピードのエサを用意しながらオレは一人そう思った。


明日からはまた学校。今日は少し早く寝るか。


「ワン」


待ちきれなかったのかラピードがオレのズボンの裾に軽く噛み付いてぐいぐいと引っ張る。


「ああ、悪ぃラピード。ボーッとしちまった」


ラピードの前にエサを置いてやって、オレは自分の食べる物を探し始めた。

                                              続く!