A-2:「灯台 若しくは 明日翔び立つあなたのために」 



Part3



野毛坂47の3枚目シングル「明日翔び立つあなたのために」は、楽曲やMVは各種メディアに流れていたものの、黒岩のケガのことや、紺野のスキャンダルのこともあって、野毛坂47として歌番組に出演することはなかった。



その頃黒岩は、車椅子で動けるくらいにはなっていたが、しかし、全くメディアに姿を現すことはしなかった、その頃・・・野毛坂47ではとある計画が秘密裏に進行していた。


それは、シングル楽曲のバージョンアップ。


一旦発売されたシングル楽曲を、バージョン3.3というカタチで改めて発表するという、前代未聞の計画だった。


グループ楽曲として「明日翔び立つあなたのために」を編曲しなおして再度レコーディング。

しかも、黒岩麻衣を外して。


よってそれは”ゼロセンター計画”と呼ばれた。


グループ楽曲にセンター黒岩は居ない。

センターを外したカタチで改めてダンスのフォーメーションが組まれた。


そして黒岩麻衣は”センターとして”別個にソロ曲を、そしてそのソロ曲の別バージョンを、ひとりレコーディングしていた。

タイトルは「灯台」という曲・・・人生の波に迷い漂うひとたちへの道標であり、また暖かく照らす心の拠り所でありたい・・・という気持ちを歌った曲だ。


「明日翔び立つあなたのために」と「灯台」は、それぞれ全く別の楽曲にも関わらず、このふたつは組み合わせることができる。

「灯台 若しくは 明日翔び立つあなたのために」として、ひとつの楽曲にもなるのだ。


野毛坂47の総合プロデューサーであり野毛坂47の楽曲全ての作詞を手がける滝本康(たきもとやすし)氏と、滝本氏が天才と称える作曲家の杉浦勝彦(すぎうらかつひこ)氏、そして、野毛坂47運営委員長の河野義雄が、ファンと黒岩に仕掛けたサプライズだった。



そんなある日黒岩は、医者からある女性を紹介された。

生駒デザイン事務所の所員の井ノ頭小百合だ。


井ノ頭はたった一度の採寸の後、黒岩のために特別な義足を作ってきた。

その義足はAI搭載の”学習する義足”だ。装着する人のクセなどを学習して、無理のない自然な歩行が可能になるというものだ。



野毛坂47は一度だけ「灯台 若しくは 明日翔び立つあなたのために」で音楽番組に出演した。

ミュージック・ギャラクシーという生放送の番組、それが「灯台 若しくは 明日翔び立つあなたのために」の、最初で最後の披露の場だった。


番組スタジオには野毛坂47クルーが、そしてとあるスタジオには黒岩麻衣がひとり、中継での出演だった。


ロングスカートに身を包み、キズが残る左目を髪で隠した黒岩の姿。

激しい動きのダンスこそないものの、黒岩はゆったりと踊っていた。


黒岩がケガをしているとは到底思えない、そんな動きの黒岩の姿が、TVの向こうにあった。


曲はまずAメロ・Bメロ部分をセンター位置が空けられたカタチで、野毛坂47クルーがパフォーマンスし、別スタジオでCメロ部分を黒岩麻衣がソロ曲として歌う。

そしてサビ部分は、野毛坂47クルーと黒岩麻衣が一緒に歌う。


「明日翔び立つあなたのために」は全く歌詞を変えることなく、しかも途中に「灯台」の歌詞を挟みこんでいるのに・・・それぞれが独立した別々の歌なはずなのに。


野毛坂47クルーの歌声が縦糸のように、黒岩麻衣の歌声が横糸のようになって、美しくも絶妙な楽曲へと織り上げられ、全く違和感なくひとつのまとまった、それでいてそれぞれ個別の楽曲よりも更に魅力が増幅された楽曲になっていた。



・・・やがて歌が終わった。

別スタジオの黒岩麻衣は、番組司会者の呼びかけにも応えることなく、無言のまま姿を消した。

後にはマイクスタンドだけが残されていた。



その後・・・”伝説の零”こと黒岩麻衣が再び公の場に姿を現すのは、アイドルとは全く違うフォーミュラNGZのレーシングチームの監督として、だった。











A-2:「灯台 若しくは 明日翔び立つあなたのために」 



Part2



様々なメディアが、黒岩麻衣の復帰は絶望的と報じていた。


ネットでは黒岩に対するバッシングが起きていた。

それは

『アイドルなのにレーサーもやってると、いつか事故を起こしてケガに繋がるぞって言ったのに、それ見たことか・・・』

といった内容が多かった。


黒岩は・・・事故は覚悟していた。

でもレースドライバーは車両の構造に守られて、ケガに繋がるようなことはそれほどないと思っていたから、だから・・・まさかこんなことになるなんて、黒岩自身は考えもしなかった。



野毛坂47の公式ブログを・・・黒岩は見るのが怖かった。

ファンのみなさんに申し訳ないという気持ちでいっぱいで、みんながどんな反応を示してるのかが、とても怖かった。


黒岩は、野毛坂47の運営委員長である河野義雄(こうのよしお)からは、今は自身のメッセージをブログアップしないように、と言われていた。

その代わり、運営委員会から公式に、今回の事故についてのいきさつや謝罪、黒岩の処遇についてなどを発表していた。


黒岩はふと、公式HPにある、運営の発表に対するコメント数を見た。

案の定、ものすごい件数が寄せられていた。


ファンのみんなは何て言ってきてるのだろう・・・?

見るのが怖い。

怖いけど・・・やっぱり確かめたい・・・。


黒岩は意を決して、運営委員会の発表に対して寄せられたコメントを見た。

そこには・・・。


「麻衣早く元気になって、待ってるよ」


「いつかまた麻衣の笑顔を見たいよ」


「復帰できなくってもいいよ、麻衣が元気に治ってくれたら」


それらは全て、黒岩を励ましたり、応援するような内容ばかりだった。

各種マスメディアやネットの掲示板などにあるような黒岩に対する批判的なコメントはひとつもなかった。


黒岩は、胸の奥からじわ・・・と暖かいものがこみ上げてくるのを感じていた。

(ありがとう・・・みんな、ありがとう・・・)

黒岩は感謝の気持ちで胸をいっぱいにしていた。


復帰できなくってもいい、とにかくも早く元気になって、みんなにお礼のメッセージを伝えたい・・・黒岩は希望いっぱいにそう心に決めていた。


なのに・・・。



やや時を経て、黒岩の気持ちを再び奈落の底につき落としてしまう出来事が、週刊誌の紙面を賑わせた。


『紺野明日香(野毛坂47)の父親、危険ドラッグで逮捕・・・』


デビューのときから苦楽をともにしてきた親友の紺野明日香の父親が、危険ドラッグを所持していたとして逮捕・起訴され、その後紺野はそのことや周囲の騒音に耐え切れず心を患い、ほどなく野毛坂47を脱退、芸能界からも引退していった。


黒岩はそのことを知り、病室のベッドで泣いた。

自分がケガをして悔しい思いをしたときとは比較にならないくらい、泣いた。


親友・紺野が今苦境にあるのに、自分はこんな有様で、彼女の心の支えになってやれなかったことが、自分のケガのこと以上に悔しくて堪らなかった。










A-2:「灯台 若しくは 明日翔び立つあなたのために」



Part1



野毛坂47の3枚目のシングル「明日翔び立つあなたのために」が製作された。

今回もセンターは黒岩麻衣。

野毛坂47デビューから、3連続のセンターだ。


製作発表からMV製作、レコーディングと、順調に仕上がるはずだった。

その日が来るまでは・・・。



野毛坂47センターを務める黒岩麻衣は、もうひとつの貌を持っている。

フォーミュラNGZのレーサーとしての貌だ。

アイドルとしての活動をしながら黒岩は、レーサーとしても活動しており、この日はそのレーサーとしての仕事をしていた。


アイドルとしての貌を持つ美人レーサーとして、黒岩は常に話題の的だった。

この日の予選で黒岩は4位のポジション。

まずまずの位置から、決勝レースに臨んだ黒岩。


しかし、この日のレースが、黒岩の運命を大きく変えることになるとは、本人は勿論、だれも予想しなかった。


決勝のレースがスタートし、何周かの周回を重ねたあるとき。

黒岩のマシンは、他の車両の事故の巻き添えになりクラッシュ、コースアウトし、マシンはエンジントラブルから動かなくなり、無念のリタイヤとなってしまった。


自分の落ち度じゃないことから、黒岩はしきりに悔しがる。

しかし、彼女の不幸はそこで終わらなかった。


動かないマシンから少し離れたところに、後続の車が不用意に突っ込みクラッシュ、コースアウトしてきた。

まるで黒岩をめがけるように・・・。



気が付いたとき、黒岩麻衣は既に、病院のベッドに居た。


眼を開けると病室の天井が見える。

でも左目が開かない。


記憶がだんだんと戻ってくる。

(そうだ、私って・・・事故に巻き込まれたんだ・・・)


思い浮かんだのは、今後しばらくはレーサーとしての活動ができないということ、そして、野毛坂47としての3枚目シングルの活動のことだ。


(みんなに迷惑かけちゃうな・・・)

自分が活動できないのは勿論悔しいけれど、それよりも周囲のひとたちに迷惑をかけてしまうのが申し訳なかった。

でも今はとにかく、治療に専念することが自分のすべきことだろうと、黒岩は感じていた。



医者が来て、いくつかのチェックをする。

コミュニケーションはとれることが確認されると、医者は思いがけないことを黒岩に告げた。


「黒岩さん、あなたは自動車レースの事故でケガをしました」

黒岩は医者に問う。

「どのくらいで復帰できますか?」


医者が答える。

「・・・大変言いにくいことですが、黒岩さん、あなたはもうレースもアイドル活動もムリだと思います。なぜなら・・・」

黒岩は医者の言葉を静かに聞いていた。


医者は言葉を続ける。

「黒岩さん。あなたは今回のケガで左目を失明、そして、右足切断となってしまいました」


最初黒岩は、医者の言葉が理解できなかった。

(左目失明・・・?右足・・・切断!?)

「そう・・・ですか・・・」

現実感のないまま、黒岩は医者の言葉を受け止める。


やがて黒岩の頭の中で、いろんな思いが渦巻いてきた。

(レースができない・・・アイドル活動もできない・・・私はこれから、どうしたらいいの・・・?)


離れて暮らす母親が着替えや身の回りに必要なものを持って、そして野毛坂47のマネージャーが見舞いに来た。


「私・・・どうなるんですか?野毛坂47の活動とか・・・」

マネージャーが重い口を開く。

「今は治療に専念してください。野毛坂47のことは・・・気にしないでって言われてもムリでしょうけど、今はそのことは考えないで」

黒岩は黙っていた。


母親が問いかける。

「何か欲しいものはない?」

黒岩は静かに答える。


「お願い、ひとりにして・・・」


心配そうな母親を、ムリに笑顔をつくって見送ると、黒岩は、泣いた。

今までこんなに泣いたことはないってほどに、いつまでも泣いた。











A-1:アナザーストーリィ「フリーライブ・カバーソングの夕べ」



野毛坂47のライブの中に、”カバーソングの夕べ”と題されたものが、不定期で金曜日の夕方に行われる。

ヨコハマ・みなとみらい地区にあるランドマークプラザやドックヤードガーデン、クイーンズスクエアなどにて行われる、フリーライブだ。


当初、野毛坂47の知名度アップを目的として始められたこの”カバーソングの夕べ”だが、今はもう野毛坂47目当てのファンが客席の殆どを占める、お馴染みのイベントになった。


そんな客席には、黒岩麻衣の大ファンである生田芹香が、友人とともに下校後、ダッシュでランドマークプラザへと滑り込んでいた。

これから間もなく開演されるところだ。


選抜クルーの18人が揃ってステージに上がり、MCを務めるキャプテン・茶和井朝陽が挨拶する。

「みなさん、こんばんはー!野毛坂47ですー。今宵もまた、私たちの『カバーソングの夕べ』にたくさんお越しくださり、ありがとうございます。

梅雨明けはまだなのに暑い日が続きますが、みなさん夏バテとかしてないですかー?大丈夫ですかー?

今回は懐かしのアニメソング特集でお送りしたいと思います。

私たちの歌声で気分を変えて、暑さとジメジメを忘れてもらえたら嬉しいです。

それでは・・・今宵の1曲目は、奥井雅美さんのカバーで『少女革命ウテナ』の主題歌『輪舞(ロンド)』をお送りします。みなさん、盛り上がっていきましょう!」


イントロが流れ始める。

選抜クルーがステージ奥へと下がり、その中から赤石華音と白坂璃湖が前に進み出て、力強い声で歌いだす。

当時アニメを観ていた世代には懐かしく、今の若者たちにとっては真新しさもあるかも知れない。


「ありがとうございます・・・」

曲が終わり、拍手な鳴り響く中、赤石と白坂は頭を下げると、ソデにハケていった。


入れ替わりに今度は、武良咲凛穂と翠川藤乃がステージ上に進み出る。

「『新世紀エヴァンゲリオン』より、『残酷な天使のテーゼ』お聴きください」

翠川の曲紹介の後、間髪入れず武良咲のソロで歌が始まる。

ふたりとも背が高く、声量も大きい。

よく通る伸びやかな声で、武良咲と翠川がアツく歌い上げる。


「続きましては・・・私、黄瀬崎ニコルと王蓮寺ソニンと柳 雫香で、『不思議の海のナディア』より、『Blue Water』を歌います」

オリジナルと少し変えて、TV用オープニング曲のようにサビから入るバージョンにアレンジされていた。

黄瀬崎らが明るくはつらつとした歌声を響かすと、更に会場は盛り上がっていく。

ステージ直上からプロジェクションマッピングにて映像が投影され、会場は更に盛り上がる。


やがて曲が終わり3人はソデにハケていき、代わって再び茶和井がMCに入る。

「ありがとうございます・・・。アップテンポの曲が続いたので、次はゆったりしたものを、黒岩麻衣のソロで」

茶和井の言葉に続けて黒岩が自身で楽曲の紹介をする。


「次に聴いて頂くのはアニメの曲ではないのですが・・・私が大好きな、声優にして歌手である笠原弘子さんのアルバム『Saga』より『エディの国』を、今回入れさせてもらいました。

この曲は、家族のために遠い異国に出てひとり働く、フィリピン人のメイドさんのものがたりです。

それでは・・・聴いて下さい」


野毛坂47楽曲スタッフによるギターアレンジで、「エディの国」のイントロが流れる。

黒岩が静かに歌いだす。


クールでシャープなイメージの容姿のわりに、意外に高くて甘みを感じる、黒岩の声。

オリジナルである笠原弘子さんも甘い声の中にも凛とした気品を感じる。

そして黒岩のそれもまた、琴の音のような甘さと気品を備えていた。


「エディの国」は松宮恭子さん作詞・作曲による割と軽快なミドルテンポの曲で、家族のために遠い異国で働くフィリピン人のメイドさんのことを歌っている。

ビザがない・・・など不法就労も匂わすような部分もあるものの、家族のために一生懸命働いているが、決して稼ぎは多くない。

でもそんなエディは、物質的な豊かさの代わりに私たちが失くしてしまったような心の幸福を両手いっぱいに抱えてる・・・といった、そんな歌だ。


せつせつと歌い上げる黒岩の歌声に、物語仕立ての切ない歌詞に、頬を濡らすひとも居た。

黒岩の優しいハミングとともに、ギターの音色が静かに途絶える。

静かで穏やかな雰囲気から水の環が拡がるように拍手がステージから周囲に繋がっていく。


「ありがとうございます・・・」黒岩がステージのソデにハケていった。

入れ違いに、紺野明日香と灰谷蕾香がステージに上がった。

黒岩とすれ違いざまにハイタッチする。

「がんばって」

黒岩が紺野らに声をかける。

「ダンケ」紺野が笑顔で黒岩に返す。


「ありがとうございます・・・。麻衣の歌声に癒されたあとは、私たちの歌声に酔い痴れてくださ~い」

紺野がそう言うと同時に、次の曲のイントロが流れ始めた。

「石川智晶さんのカバーで、『ぼくらの、』の主題歌『アンインストール』聴いて下さい!」

女性コーラスから入る掴み所のない不思議な雰囲気のイントロ。

紺野が主旋律を、灰谷が副旋律を歌う。

不思議な旋律と和音が辺りの空気をも異空間のように変えていく。


歌が終わり、紺野と灰谷がハケて、入れ替わりに今度は、蒼井北斗がステージに上がる。

とたんに、少女たちの黄色い声がランドマークプラザに響き渡る。

蒼井が話し出す。

「今宵のカバーソングのラストは僕とキャプテンで。『カウボーイビバップ』から、『The Real Folk Blues』を、お聴きください・・・」

中性的なハスキーボイスで蒼井が、そして、メランコリックに茶和井が歌い上げる。

ちょっと気だるく静かな雰囲気となり、ステージ周囲の空気がまた変わる。


曲が終わり、選抜クルー全員がステージに上がり、再び茶和井のMC。

「ありがとうございます!では、最後だけはいつものように野毛坂47オリジナルで、3ndシングルのカップリングより、今日が初お披露目の『閉館を待つ空想美術館』と『くじらの背中で見る夢は』をお聴きください!」

初お披露目の楽曲とあって、クルー全員に気合が入る。

額に汗をにじませながらも、笑顔を絶やさず黒岩たちは、懸命に歌い、踊った。


この日のライブも大盛況のうちに幕を閉じた。

約一月後には、函館を皮切りに、神戸、長崎、そして横浜の順でライブツアーが始まる。


しかし・・・初日の函館の会場に、黒岩の姿はなかった。

黒岩の姿は・・・病院にあった。


そして、この日の”カバーソングの夕べ”・・・これが黒岩麻衣にとって、野毛坂47としての最後のステージとなってしまった・・・。



    *    *    *


ども、匿名絶望です。



アナザーストーリィ。


今回は、黒岩麻衣がまだ、野毛坂47で活躍してた頃の、

「風紡ぎの娘たち」以前のオハナシです。



野毛坂47クルーがカバーしている

アニメの楽曲は、勿論ワタシの好みでチョイス。



楽曲的にはいいと思いますケドね。

YouTubeとかで検索してみてくださいまし。



・・・あ、

笠原弘子さんの「エディの国」は

みつかんないかも知れませんね。



それではまた、いつか・・・。(^_^)/~










※注意

ブログ形式で書いてます都合上、

最初からお読みになる場合は、「記事一覧」→「古い順」の操作のうえ

一番古い記事からお読みくださいますよう、お願い申し上げます。



69 生駒玲於奈の場合:5 「エピローグ」

「ハイ、新聞です」

井ノ頭小百合が生駒玲於奈に朝刊を渡す。

「ん、ありゃーと(ありがと)さん」

スポーツ面に桜木玲香の撮った写真入りで、チームアイオンによるフォーミュラNGZ初参戦初優勝の記事が踊っていた。

「優勝・・・しちゃいましたね♪」

嬉しそうな井ノ頭の声。

「小百合さん、遠藤さんのとこに優勝のお祝い、贈っといてくだしゃいな」
「ハイ」と井ノ頭が返事をした。すると生駒はこう付け加えた。
「あっとぉ、それからコレ。黒岩さんにもお祝い、贈っといてちょ」
「え・・・?」井ノ頭は目を丸くして、生駒の顔を見る。
「新しい義足。今度のはね、ハイヒールが履けるカタチにしといたのじゃー(笑)」
「所長、いつの間に・・・」井ノ頭の表情が曇る。そして、
「所長、またムリしたんですね?もぉ・・・ムリはしないようにって、あれほどお医者様に言われてるのに・・・」
井ノ頭の言葉を受けて生駒が笑顔で返す。
「大丈夫大丈夫。さゆさんがコワイからそんなムリはしてまへ~ん。とにかく、コレよろしくね」

「ハイ」

井ノ頭の表情は、苦笑から輝くような笑顔に変わった。

「さゆ(井ノ頭)さーん、鍋吹いてるよー」

キッチンから須藤万理華が呼ぶ。

「ハーイ」

とたとたとキッチンへと駆ける井ノ頭を見送りながら、生駒は微笑し、つぶやく。
(さゆさん、ゴメンね。ホントはちょっとムリしちゃったの。でもそんなの言えないじゃん)
そして再び新聞に目を通し、

「やったね♪」

満足げに微笑むと、そう言って生駒はおおきく息をついた。

(さぁーて、なかなかにしんどかったけど、よかったよかった・・・)

そう思いながら、生駒は目を閉じて椅子に身を沈めた。

新聞が生駒の手を離れ、床にバサッと落ちる。

しかし生駒はそれを拾おうともせず、ずっと目を閉じたままだった。

その表情は本当に安らかで・・・。





しばらくして井ノ頭が食事を運んできた。

「所長、ゴハンですよー・・・所長?どーしたんですか?もぉ・・・寝ちゃったんですか?・・・所長!?」

生駒は返事をしない。そればかりか、目を閉じ、安らかな表情のまま、全く動かない。

「所長?・・・所長!?」

井ノ頭が生駒の身体をゆすって起こそうとする。しかし生駒は起きない。

「やだ・・・所長?ウソ・・・ですよね?・・・イヤぁ・・・いやぁあああ・・・」

「なんちゃってぇ♪」

急に目を開けて笑い出す生駒。

「もう!本気で心配したんですからね!」

拾った新聞を生駒の顔に投げつけると、井ノ頭は、少し涙目でふくれた。

そんなふたりにジトーーーとした眼差しを向け、須藤がボソリとつぶやいた。

「・・・一生やってろ」




 ・・・END♪




    *    *    *

あとがき。


ども、匿名絶望です。


終わりました。

お読みくださったみなさま、ありがとうございます。

元の文章を別のカタチで書きはじめたのは、

昨年の・・・11月頃でしたかねぇ・・・。



最初、

登場人物それぞれのものがたりをオムニバスで書いて、

”○○の場合”といったカタチで各章を配置・構成し、

改めて全体を構成しなおして、その都度

加筆・削除・修正して、発表のカタチになりました。



その間に、セーラ・畑中・ラインハルト役を想定してた

畠中清羅さんの卒業など残念なこともありましたが、

畑中はそのまま残しました。



それに、なんといっても

2014年の紅白歌合戦初出場内定報道がありながら、

現実には出場が叶わなかった乃木坂46のみんなの無念さ。



それでも彼女らが前を向いて進む姿は、

見ていてとても気持ちがよかったです。



(※追記 その後、2015年末の紅白歌合戦に

      乃木坂46の出場が叶いました)



カタチは違えど、何かそういった

数々の障害・苦難を乗り越えて、

みんなで一緒にがんばって、目標を達成する

という映像作品を見たい・・・という気持ちから

こういったものがたりを書きはじめました。



でも・・・

7月10日より、

「悲しみの忘れ方 Documentary of 乃木坂46」

http://www.2015-nogizaka46.jp/


が全国公開されます。



リアル(事実)には敵わないですよねー、

やっぱフィクションは。



でも、

アイドルのドキュメンタリー映画って、

どーしてもアイドルファンをターゲットとしてる

感じがあって、一般の映画ファンには

受け入れられるのかなー?などと思ったり。



その点、フィクションでも

一般の映画ファンに受け入れられるものにさえ

なっていたら、その方がいいようにも思えますが

いかがでしょう?



一方フィクション・・・ドラマでも、

「初森ベマーズ」(テレビ東京系)がありますが、

これもどんなお話になるのでしょう?




ブログにて作品(・・・と云えるかな?)を発表する

というカタチをとったのはやはり、

手軽だから。



友人にこのカタチで小説を発表してたヤツも居て、

それも参考にしました。



あと、ブログだと、雑誌や新聞連載みたいに

読んでもらえるかなーって。



勿論、このものがたりが

実際に映像作品になるとは思ってません。



当ものがたりには

フォーミュラマシン、

医療ロボティクス、

AI内蔵義足、

ドローン・・・etc.

色んなハイテクが出てきますし、

それらを実際に撮影用に作るのも、

或いはCGでやるのもタイヘンでしょうし。

費用の面でも。



できることなら、何らかの流れの中で

乃木坂46メンバーの誰かにこのものがたりが伝わり、

読んでいただけて、


「おもしろかったよ」


って言ってもらえたら・・・


などということがあれば、

それは無上の喜びですね。



















68 橋本奈津美の場合:16 「再生」



最終第7戦、チームアイオンは見事にワンツーフィニッシュで優勝を飾った。

表彰台にて互いの健闘を称えながら微笑む、橋本奈津美と岸乃七瀬。

その脇には、そうした様子を見守るレースクイーンの松浦沙友理らの姿があり、そしてそんな華々しいシーンを、多くの取材班とともに、桜木玲香のカメラも捉えていた。

表彰台で手を振るふたりの様子を見守り、瞳を潤ませながら微笑む生田芹香、遠藤美彩、そして黒岩麻衣ほかチームのみんな・・・


終わった・・・。


いや、まだ終わってないものがある。

表彰式を終えると、橋本が遠藤の車にて、黒岩もインタビューを終えてから、藤川が手術を受けている病院へと向かう。

(どうか無事に、手術が成功しますように・・・)

病院に向かう車の中、橋本はそれだけを祈っていた。


病院に到着したときには既に手術は終わっていた。

ちょうど相良医師から状況説明を受け終えたばかりの両親に、橋本が

「手術・・・どうだったの?」と、状況を聞くと、後ろから不意に声が。相良医師だった。

「あ、手術は成功です。その後の処置とかはここの医師に引き継いでますから。そいじゃ私はこれで。医療物資をまとめて、すぐにシエラレオネに戻らないといけませんので・・・」

藤川夫妻と橋本は、慌ただしく相良医師の背中に頭を下げた。そして

「聞いてのように手術は・・・成功だそうだ・・・あとは術後の状況次第だが・・・」

ひとまずは安心しながらもまだ不安の表情を隠せない、父親の藤川圭吾が答える。

姉の藤川麻衣は、病室のベッドに身を横たえていた。

「目が覚めるのは明日辺りだろうから・・・今日のところは帰ろう」

そう言う父親に橋本はすがるように言う。

「目を覚ますまで・・・お姉ちゃんと一緒に居たい。ここ個室だし・・・いいでしょう?」

「しかし・・・」

そこに橋本の母親の美津子が

「一緒にいさせてやりましょう」

と言ってくれ、父親も応じた。

病院の許可をとり、橋本は病室に泊まらせてもらえることになった。

「じゃあまた・・・お姉さん気が付いたら連絡して」

黒岩らはそう言い残して帰っていった。

病室にひとり・・・いや、藤川とふたりになった橋本。

藤川の手を握り、ずっと祈っていた。

(無事に目を覚まして・・・お願い・・・)


やがて、夜は明けて、橋本は藤川の横で椅子に座ったまま、ベッドにうつ伏せで眠っていた。

「もう・・・風邪ひいちゃうじゃない・・・」

そう言いながら眠ってる橋本の肩にそっと上着を掛けるひと・・・母親の美津子だった。橋本はその気配を感じて目を覚まし、夕べは病院に泊まったのを思い出して藤川の顔を見るが・・・まだ目を覚ましていなかった。

小鳥がさえずる窓辺に向かい、美津子が立っていた。

「奈津美・・・起きたのね?ゴメンね・・・あなたにはずっとイヤな思いばかりさせて・・・私、母親失格ね」

いつもと違う美津子の雰囲気に、橋本は怪訝そうな表情でその姿を見つめる。

「いまさら・・・って思うかも知れないけど、あなたに家に戻ってきて欲しいの。私・・・やりなおせるかな?」

橋本は下を向いていた。思いは同じだった。自分こそ、お母さんに謝って、一緒にまたやり直したい・・・。

「私こそ・・・ごめんなさい・・・」

その声にゆっくり振り返る美津子、それを見つめる橋本。


そのときだった。かすかに息のような声のような音が、ふたりの耳にはっきりと聞こえた。

ふたりは藤川の方に目を遣る。藤川の目が、少しだけ開いて、かすかに声が漏れ聞こえていた・・・!

「・・・お姉ちゃん!」

そこからはもう、橋本の言葉は涙でぐしょぐしょになって、聞き取れなかった・・・。

晴れ晴れとした気持ちを取り戻し、橋本はチームのみんなに電話をする。その声には喜びが溢れていた。

連絡を受けたある者は微笑みの声をあげ、ある者は安堵の声をもらし、ある者は涙に喜びの声をぬらした。












67 最終第7戦・・・それぞれの場合:5 「決戦」



「あぁ・・・もう、あと1台なのに・・・がんばって!」

VIP席の生田芹香や遠藤美彩らが、橋本奈津美、岸乃七瀬の走りを見守っている。

うまくいけば優勝できるかも知れないという望みと、なかなかトップになれない歯がゆさとで、生田は気が気ではなかった。

橋本が、トップのマシンの後ろにピタリと吸い付くように位置づけた。その直後に岸乃が続く。あと残す周回はほんの少しだ、早く決着をつけないといけないのに・・・。


橋本は遠藤に誓った言葉を思い出す。

(・・・今シーズン、絶対に総合優勝してみせる・・・)

もう少しだ、目の前のコイツを抜いたら、そこに総合優勝が見える・・・なのに・・・。

橋本の脳裏に、姉が・・・藤川麻衣が車に撥ねられたときのあの忌まわしい瞬間がよみがえる。

ダメだ!今はそのことは忘れろっ、橋本は自分に言い聞かせる。

「奈津美っ!」

無線を通して黒岩から橋本に声がとぶ。瞬間、橋本は我に返った。

黒岩が言葉を続ける。

「前方に周回遅れが居る。トップのヤツはそれを追い抜くときに隙ができるかも知れない。そこを狙え!」

黒岩の言葉どおりに、やがて前方に周回遅れが見えた。

トップのマシンがそれを追い越しにかかるが、なんともタイミングが悪かった・・・トップのマシンにとっては!


周回遅れを追い抜いた直後、トップのマシンがわずかに外側に膨らんだ。チームエンブラエルの選手のクセを黒岩はよく覚えていた。そして橋本はその隙を見逃さなかった。強引にイン側へと自分のマシンをねじ込む。トップのマシンもそうはさせじともがくが、既にインへと入り込まれた橋本のマシンとの間で接触、双方ともボディが少し破損したが、後には引けない。

接触でトップのマシンがアウトに膨らんだ。すかさず橋本が前に出る、そして岸乃も一体となってそれに続く、一瞬にして立場は逆転した。

「逃げきれっ!!」

黒岩の声が橋本のヘルメットの中に響く。
橋本は後ろを気にすることなくマシンをとばす。今や3位となったブラジルの選手が懸命に追いすがるが、岸乃の巧みなマシンコントロールによって前に出られない。

コーナーを抜けて、最後の直線。もうすぐだ。ゴール係員の手にチェッカーフラッグが見える・・・。


遠藤らアイオンの社員・・・高濱らチームスタッフたち・・・若月らメカニックたち・・・生駒デザイン事務所のみんな・・・生田オーナー・・・そして黒岩・・・ほかにも多くの、支えてくれたみんなが吹かせる風が、今ひとつの美しく強い絆の糸として紡がれる・・・。

目の前に他のマシンは居ない。

橋本と岸乃のふたりは、風の中にはためくチェッカーフラッグの残像を瞳の奥に残して・・・。













登場人物紹介。



最終回の第37回は、生駒玲於奈です。



モデルの乃木坂46メンバーは・・・



勿論この方!生駒里奈さんです。

(写真は「乃木坂って、どこ?」より)



*プロフィール*

1995年12月29日生まれ

秋田県出身。


12枚目まで全てのシングルで福神であり、

且つ、1~5、12枚目シングルでセンターを務める

という、グループでもっともセンター経験を持つ。


’14冬~’15春の約1年、AKB48チームB兼任。

選抜総選挙では14位に。

乃木坂46の顔として、個人仕事は多数。

また、映画「コープスパーティー」で主演。

愛称は「いこまちゃん、いこたん」



乃木坂46を体現するような、そんなコです。


今でこそ天真爛漫な感じですが、

思春期は内向的でひとりで本を読んでるような

そんなコだったとか。


その後、自分を変えたいと応募した

乃木坂46オーディションに見事合格し、

その後は眼を見張る活躍を見せてくれてます。


そんな生駒さんが自分のことを歌ってると思った

5thシングル「君の名は希望」は、

https://www.youtube.com/watch?v=JbAgeuQQQ1c

乃木坂46の最高傑作とも云われ、

歌詞の主人公は生駒里奈さんそのものとも思えます。





さて、生駒玲於奈ですが。


本作では色んな苦境を味わった登場人物の中でも、

いっちゃん重たい十字架を背負う、そんなコです。


死と隣り合わせの不治の病に冒され、

自由に動くこともできず、心にかかる圧力は

そうとうなものだと思います。


それでも、周囲の人々のおかげもあり、

真っ暗な闇に射す光の道を歩むことができました。


チームアイオンからの依頼でマシンの設計変更を

担うほか、橋本奈津美や黒岩麻衣のこころを揺らし、

影響を与えます。


とっても重要な役どころです。


そして、

生駒玲於奈を演じる際にも、特殊メイクが必要ですし、

行動補助ロボットを装着するというのもありますし、

なかなかタイヘンな役ですね。


でも、

生駒里奈さんはがんばって演じてくれるでしょうし

見事に演じ切ってくれるでしょう。


因みに、”玲於奈”の名は勿論、

ノーベル賞科学者の江崎玲於奈博士より拝借。



登場人物紹介は今回で最後です。


映像化された彼女らの姿を見たいなぁ・・・。

今は純粋にそう想います。










登場人物紹介。



第36回は、須藤万理華です。



モデルの乃木坂46メンバーは・・・



この方、伊藤万理華さん。

(写真は「乃木坂って、どこ?」より)



*プロフィール*

1996年2月20日生まれ

神奈川県出身。


3、6,7、11、12枚目シングルにて選抜。


映画「アイズ」にて主演。

雑誌「MdN」で連載を持ち、

熊坂出氏の小説「羽ばたくシガイ」などの

表紙絵を担当するなど、アーティスティックな才能を持つ。

また、「ナイフ」や「まりっか’17」など

シングルDVD収録の「個人PVの女王」の異名も。

愛称は「まりっか」



今、乃木坂46メンバーでワタシがイチバン好きなコです。

やっぱ、アーティスティックな才能ってのが

理由ですね。

丸顔童顔でカワイイのもまた魅力です。



選抜以外のアンダーメンバーにて行われる

アンダーライブを成功に導いた立役者という

アイドルとしての才覚もすばらしいものをお持ちです。


センターを担った「生まれたままで」はいいですね。

https://www.youtube.com/watch?v=oa9ms7PoD2w

あと選抜として参加の「他の星から」も。

https://www.youtube.com/watch?v=DZqYwpImtPU


私見ですが、

これまでの選抜センター未経験者の中で

一番センターに就くのを期待してるのですが

いかがでしょう。



さて、須藤万理華ですが。


やはり、伊藤万理華さんのアートの才能に

ものづくりの才能に溢れてるというのを

重ねました。


また、須藤が保育園時代より

真面目で正義感に溢れるというのは

ワタシの創作ですが、

伊藤さんにもそういった雰囲気が見えます。



ワタシとしては

今後の活躍を一番期待してるコです。











登場人物紹介。



第35回は、井ノ頭小百合です。



モデルの乃木坂46メンバーは・・・



この方、井上小百合さん。

(写真は「乃木坂って、どこ?」より)



*プロフィール*

1994年12月14日生まれ

埼玉県出身。


1~6、9、12枚目シングルで選抜。


舞台「帝一の國」に出演。

愛称は「さゆ、さゆにゃん」



正統派お嬢様系の上品な顔立ちに

どこかほんわかした性格ながら

いざ本番となるとスイッチが切り替わり、

堂々の立ち居振る舞いを見せます。


儚げな表情がとても萌えます。

でも実際は、特撮が大好きで、子供の頃は

お兄ちゃんと男の子の遊びをしてた活発な面も。


アンダー曲「あの日 僕は咄嗟に嘘をついた

https://www.youtube.com/watch?v=ekd7Ty1sJlg

ではセンターを務め、アンダーライブでは

すばらしい結果を残してくれました。


初期は選抜常連でしたが、

途中から当落線上付近になっちゃったので、

また選抜常連になってほしいですね。




さて、井ノ頭小百合ですが。


生駒デザイン事務所の所員として

生駒を助けて活躍します。


医療や福祉関係の知識が豊富というのは

井上さんご本人が、アイドルになってなかったら

福祉関係の仕事に進むつもりだった

というエピソードによります。


明るく、優しく、人当たりのいい井の頭ですが、

いざ仕事となると、人が変わったように

向かう姿は真剣そのもの。

とても頼もしいです。



井上さんは、



その愛らしさをずっと失わずに

女優の道をまっすぐに進んでくれたら

と思います。