いつも読ませていただいているカクザンさんの blog で興味深い話題が取り上げられていたので、この blog でも取り上げたいと思います。

blog でご指摘の通り、難しさって考慮すべき要素だと思います。

計算機の世界だと「計算資源」という言葉を使ったりしますが、まあとにかく、限られた時間で形勢をどこまで見通すかという話は、投入できる計算資源がどれくらいあるかにかなり直結していると思います。

人間の場合、「計算資源」というより「思考資源」みたいな言い方をするほうがいいかも知れません。

プロ棋士だって、0分+5秒 の対局と 8時間+60秒 の対局では読みが変わる (というか悪手の確率が変わる) のではないでしょうか。


で、定跡とか手筋とか詰将棋の解き方を知っていると、僅かな思考資源で先の方まで見通しやすくなる、ということが将棋の本質の一部な気がします。

入門者だって、「次の1手に10年間かけてもいいよ」と言われたら、結構な量の思考資源を投入してそれなりの手が選べると思います。ただ、ルール以外に何も知らない状態から10年間分の思考資源を自分1人で投入しなくても、先人たちが投入して編み出してくれた定跡なり手筋なり詰将棋の解き方なりを利用することで (身につけることで) 成果が利用できる、というわけです。このあたり、現実の事象を元に法則を導出する科学技術の発展と相似なように思います。(原始時代から現代までの全ての科学技術上の発見を自分でやらなくても先人たちの積み重ねが利用できます。)


AI は、人間に比べてはるかに多い計算資源を投入できるのですから、その投入量を前提に先読みします。AI の推奨手は、それを元に何らかの法則や感覚を抽出して身に着けることができる人にとっては参考になると思いますが、それができるだけの棋力がない人にとっては (AI と同程度の計算資源を投入することは無理ですから) あまり参考にならないのだと思います。


AI の設定によって弱い AI を作れないかな、と考えて試してみた経験が私にもあります。

でも、うまくいきませんでした。読みの深さとか node 数とかの制約を強くしても、人間っぽくならないのです。

私の棋力自体が低いのでうまく説明できないのですが、例えばどんなに制約を強くしても AI は遠見の角を見落とさないのです。しかし、人間の入門者・初心者は遠見の角をよく見落とします。入門者・初心者は、盤面全部を見渡すことが難しく、自分の思考の焦点が当たっている局所は思考に入ってくるものの遠い駒はなかなか思考に入ってきません。


いずれ、将棋 AI の研究が進んでいって、入門者・初心者にとっての思考負荷などを元に入門者・初心者っぽく振舞う AI ができるかも知れません。例えば遠見の角はその距離によって〇%の確率で見落とす、なんていう AI もできるかも知れません。

でも、そういう AI を作る人はすぐには表れない気がします。今の AI は、思考の最初に合法手を絞り込んでから思考するので、遠見の角を見落として王手放置で負けるなんてことができないのです。

王手放置もできるような AI も、作る気になれば作れるはずですが、そういうものを作るよりも強い AI を作る方が話題的な需要が大きいでしょうから、やっぱり王手放置 AI はあまり期待できなそうです。