TV などで見た印象なのか、数少ない私の訪問経験からなのか、どちらなのか思い出せないのですが、「老人ホーム」「デイサービス」では童謡が流されている印象を持っています。

調べてみたら、やはりそういうところが少なくないようです。

私が最初に勤めた高齢者施設の話しなので20年前のことです。
施設の日常生活では、各個人の居室でなく共有のリビングルームでくつろいで過ごされる方が多かったです。
そこではスタッフが気を利かせて、CDラジカセで音楽を流してくれるのですが、ほとんどが童謡といったものでした。

正直、私には幼稚園、小学生でもあるまいしこれはないな、と思えました。

で、「多くの人は高齢者になったら音楽の好みの上位に童謡が入ってくるのか」なんて早合点してました。つまり、音楽の好みは年齢に左右される、と思っていたのです。

しかし、よく考えてみると、自分が高齢者になった時に童謡が聞きたくなるなんて状況は全く想像できません。同じように考える人はいるようです (1) (2)

数年前くらいだったか、高齢者になると童謡を好きになるわけではなく、若いころの音楽環境が童謡中心であった世代があるだけだ、ということを知りました。最近の記事だと「老人施設で歌う曲が童謡や文部省唱歌からフォークソングに…施設離れの「シン70代」に怯える介護業界の声」なんてのもあります。

つまり、年齢が音楽の好みを左右する (高齢者になると大部分の人が童謡を好きになる) のではなく、世代 (育った年代) によって音楽の好みが決まっている、ということです。


現在の将棋の例会・大会の参加者の中で高齢者比率は高いと思います。その比率を見て「ああ、多くの人は高齢者になった後の所属 community として将棋などを選ぶようになるのだなあ」と思ったら間違いです。正しくは「今多く参加している世代の方々は将棋などを主たる娯楽として育ったのだなあ」です。

言い換えると、「今の勤労世代の例会・大会参加者が少なくても、高齢者になったら将棋をやる人が一気に増えるだろう」などと期待してはいけない、ということでもあります。定年退職して自由時間が増えて将棋をやるようになる人も少しはいるかも知れませんが、主に年齢ではなく世代が趣味を左右するのです。


30代の頃は、年齢と世代の違いなんて全く分かっていませんでした。自分の父母・自分の祖父母を見て「私もこの年齢になったらこういう趣味になるのかなあ」みたいな漠然とした感覚を持っていました。


まあ、自分より上の世代を見ている間はまだいいのです。例えば「フォークソング」が流行した記憶は私にはないので、私が物心つく前の古い時代の音楽だと認識しています。老人施設で「フォークソング」が導入されても、そういう世代の方々が入所しているのだと理解しています。

自分より下の世代を見ると怖くなります。TV 番組は若い人に焦点を当てない傾向が強くなってきていて、特に音楽番組では私や妻の世代を狙った選曲も結構多いです。そういう番組を見ながら息子に「こういう曲って『古い』って感じる?」と質問したら、迷いなく「うん」と返事されました。

我々も、自分の世代の特性にある程度束縛されているのです。

私の世代は、電子遊戯が充分に普及していない世代です (「ゲームウォッチ」は結構広まりました)。だから、将棋も一応それなりに普及していた娯楽の一種でした。私の世代の感覚で「私より若い世代でも、ほっといても将棋は同じくらい普及するだろう」なんて考えていたら、将棋はあっという間に衰退すると思います。

将棋界から見ると、電子遊戯が充分に普及していなかった頃は bonus time です (bonus 世代と言ってもいいかも知れません)。8歳くらいの頃に将棋を経験した世代は (私の世代や私の少し下の世代くらいまで)、大人になっても将棋を娯楽の1つに位置付けます。

しかし、電子遊戯がそこそこ普及した頃に8歳だった世代あたりから、個人個人の娯楽における将棋の位置づけは変わっているはずです。

私の少し下の世代が高齢者になって将棋を指す頃までが将棋界の bonus time の余韻です。そこから先の未来は、子供の頃から電子遊戯が普通に存在した世代ばかりの時代になります。

勝手な予測ですが、余韻は残り20年~25年くらいな気がします (完全に余韻がなくなるまでの残り期間ではなく、余韻がかなり小さくなるまでの残り期間です)。それまでに永続的な普及を実現しておかないと、将棋界は一気に苦しくなるでしょう。

羽生善治級、藤井聡太級の社会的衝撃を生み出せる頻度は、これも勝手な予測ですが、20年間~30年間に1度くらいな気がします。