今回は将棋とは無関係な話です (囲碁だけちょっと関係します)。
10年ちょっとくらい前、Apple 製品の evangelist の方が iPad 上で『英語でアリス: 不思議の国』を周囲に見せていました。
「こんなこともできるんですよ」と言って挿絵の懐中時計を動かしたりして、周囲は「すごいですね」なんて言っていたのですが、私はそれを見て「ああ、生き残れない技術だなあ」という感想を持ちました (もちろんその場では言いませんでした)。
ふと思い出したので、この application が今でも入手可能なのか調べてみたら、既に配信を停止していました。
これは当然の話で、絵本の中の懐中時計を動かすような application を作ったら、対応 OS が update されるたびにその時その時の技術でもちゃんと懐中時計が動くように作り直さないといけないのです。
まあ、発行者である eigotown 社がとても大きければ新しい技術に合わせてずっと作り直していくこともできるでしょうが、そんなことができる企業は本当に限られています。
どうしてもずっと懐中時計を動かしたければ、懐中時計を動かすことを記述できる format を作って世に公開し、その format に従って絵本を表示する application を作り、どちらも普及させる、というのが正攻法です。ある程度普及してしまえば、eigotown 社が application を作らなくても誰かが作ってくれますし、公開されている formart に従った data であればどの application でも再生できるようになります。
結局、この『英語でアリス: 不思議の国』を買ってしまった人は、普通の電子書籍と異なり新しい端末では読むことができなくなってしまいます。古い端末に古い OS を載せたままなら読めなくはないですが、そういう端末は普段使いには向きません。言い換えると、10年たったら読めなくなってしまう data のために600円を払った形になっているのでしょう。
こういう、技術に対する嗅覚って、結構大切なことだと思っています。
日本棋院の電子書籍の page を見ていたら、少々怖い記述がありました。
日本棋院を信じて i碁BOOKS で電子書籍を買った方は、先述の『英語でアリス: 不思議の国』を購入した人と似たような目に遭っていると思われます。
さすがにこれは、日本棋院の見通しが甘かったと言われても仕方ないと思います。
専用 application の開発はそれなりにお金がかかります。対応 OS が update されると、それに合わせてまあまあ開発費用が掛かります (イチからの開発ではなく修正で済むので、ムチャクチャ高額というわけではないですが、でもまあ毎年数十万円~数百万円くらいの出費は覚悟すべきと思われます)。
i碁BOOKS で電子書籍を買った方は、その電子書籍を何年間くらい読めることを期待していると思いますか? 基本的には「死ぬまで読める」ことを期待していると思われます。まあ、全ての購入者の「死ぬまで」を保証することは難しいとしても、少なくとも30年間くらいは読めるようにしておかないといけないでしょう。
つまり、Kindle のような大手 platform に乗っからずに自分達で独自の platform を用意するのなら、ちゃんと売り上げから application 改修費用を捻出できるくらいの見通しを持っていないといけません。大雑把に数値化してしまいますが、この application を30年間養うのは、平均以下のプロ棋士1人を30年間養うのと同じくらいの出費になるものと思われます。
なお、e碁BOOKS の URL も bit.ly という短縮 URL service を使っている点が問題です。最近だと「オートバックスDMのQRコード読み込み→不正サイトでカード情報抜き取られ」という事件も発生しています。短縮 URL は基本的に利用してはいけない (短縮 URL service 側で転送先を簡単に変更されてしまう可能性がある) のに使っている点が、公的な団体としてとても心配です。