連日、わけのわからない記事ですみません。今回は、情報技術の話です。


私がいつも読ませていただいている blog のある日の記事に、こんなことが書いてありました。

「3人団体は有段者お断りじゃなかったっけ?」と聞いたら「うち有段者いないですよ」とか言っておられたので「いや、四段持ってるしょ」と言ったら「取ったの大昔過ぎて時効ですよ」と言ってました(笑)。

当該記事はにこやかな文面で書かれていたので、恐らくはただのちょっとしたやり取りだと思うのですが、似たような話はいくつもの将棋大会で聞いています。

自分の本来の段級位よりも下の class に参加しても、優勝争いに絡まなければ、あまり大きな問題にしなくていいかも知れません。ですが、優勝争いに絡むほどの結果を出した場合、「あの人たちが段級位を偽ってオレ達の class に参加しなければ、オレだって優勝争いに絡めたのに…」という不満が何人もの人から出てくるような気がします。


で、この問題をどう解決するか。

将棋界でただ1つ、参加者の段級位を管理する機関 (以下、「段級位管理機関」と呼ぶ) ができれば、問題はそれなりに解決します。ですが、この案には少なくとも2つの問題点があります。

  • そもそも将棋界の段級位は認定者によって基準が大きく異なること
  • 「ただ1つの機関」の権威付けをする良い方法が (少なくとも私には) 思い浮かばないこと

前者は、書き始めると長くなるので、ここでは論じません。後者だけ論じます。

人民と政府の関係を論じるのであれば、まずは社会契約論の枠組みを持ってくることができます。そして、政府というものは単一でなければほぼ機能せず (多重政府は機能しない)、また無政府状態を良しとする人がほぼ存在しないことから、単一の政府の正当性を主張することができます (「単一の政府と契約しない自由」の代わりに、「政府の方向性を選ぶ自由」、すなわち主権が用意されます)。

ですが、将棋界は、「ただ1つの機関」(単一の政府のようなもの) がなくても成り立つのです。将棋愛好家は、めいめい自由に将棋を楽しめばよいのです。


そうすると、大会や例会の際だけ、段級位管理機関が必要になります。しかし、「ただ1つの機関」に限定できないので、誰でも段級位管理機関を設立することができます。

これは、電子証明書の発行の仕組みに似ています。

電子証明書は、誰でも発行することができます。発行された電子証明書が実際に機能するには、その電子証明書を受け取った人が、発行機関を信頼するかどうか判断します。

FireFox や Google Chrome や MS-Windows には、世界的に信頼されている root 電子証明書発行機関が最初から登録されていますが、FireFox や Google Chrome や MS-Windows の利用者は、自分の好みの機関をそこに追加したり、逆に好みでない機関をそこから削除したりできます。これと同様に、大会主催者は、「参加者の段級位は○○が管理する情報に従います」のように選ぶことができる、というのが正常な状態だと思われます。

ただし、実際の問題として、将棋界で唯一の、圧倒的に信頼を得ている段級位管理機関、というものが存在すると便利です (他の段級位管理機関を封じる必要はないです)。そういう機関を設立することができる社会的力量がある組織は、現在は日本将棋連盟しか存在しないと思われます。

…という話を、日本将棋連盟の関係者に話して理解してもらいたいところなのですが、何だか、理解してもらうだけで一苦労のような気がします。

そして、これをそれなりに実現するためには、OpenID Connect の server が必要だと思っているのですが…OpenID Connect server にすることができる opensource software (の実装) は、ざっと見た限りでは存在しないようです。Authlete のような有料の server を借りれば実現できますが、今度は費用対効果を納得してもらわないといけません。


上記の問題が解決できたとしても、もう1つ問題があります。大会参加者・例会参加者の一意性をどのように確保するか、という問題です。(一意性を確保するとは、A 大会で優勝した X さんが B 大会に参加しようとした場合に「あなたは A 大会で優勝しているので、○○ class かそれより上にしか参加できません」と言える、ということです。言い換えると、「優勝者と私は別人です」という主張が成立しないようにすることです。)

実は、日本将棋連盟の支部会員だけが参加できる大会・例会であれば、この問題はほぼ解決できます。参加申し込み時に、支部会員であることを示せばよいだけです (支部会員は会員番号が印字された会員証を持っています)。1人の人が複数の支部に所属する (会員証を複数枚所有する) ことは可能ですが、氏名も生年月日も日本将棋連盟に届け出ているのですから、名寄せはそれほど難しくありません。

ただ、将棋普及の面から言うと、支部会員に限定しない大会・例会がそれなりにないと、支部への新規加入者が増えません。なので、参加者の一意性の確保は、日本将棋連盟の会員証だけでは実現が難しいです。


私が所属していない団体も含めて、以下、好き勝手に理想を語ります。

まず、日本将棋連盟は、支部会員外の人まで含めて管理する server を立てます。これを、仮に ShogiTrust と呼びます。LPSA や各種将棋連盟にも一緒に参加してもらうのが理想です。

ShogiTrust は、誰でも登録でき、Shogi-ID を発行してもらうことができます。ただし、登録時には「生涯で1つの Shogi-ID しか発行しません」という誓約をしてもらいます。server 維持費用を頭割りした金額を会費として請求してもいいと思いますが、そこは何とか日本将棋連盟に費用を出してもらって (私の予想では年間1万円~数万円程度)、個人は完全無料、という形が理想です。この場合、大会運営者も無料で利用できます。

各種の大会・例会は、参加者の一意性を担保するために ShogiTrust を利用している場合、そのことを示す icon を参加案内などに掲示するようにします。CC-BY のように、短い文字列でそこそこ内容が確認できることが理想です。ShogiTrust (または類似の段級位管理機関) を利用していない大会・例会では、「優勝者と私は別人です」という主張が通ってしまう (嘘つき参加者が大量に参加登録しても防ぐことができない)、ということが将棋愛好家の間に広まれば、ShogiTrust (または類似の段級位管理機関) を利用する大会・例会の割合はグンと上がると思います。


段級位管理機関は、参加者の一意性だけではなく、参加者の属性 (小学生かどうか、性別、居住県、など) も管理できるとよいです。これが可能になると、online の小学生大会などが実現しやすくなります。

参加者の属性を何で証明するか、またそういった個人情報を蓄積する際の security をどこまで確保するか、という課題はあるのですけどね。


私の本業が忙しくなければ、上記の system 自体を作り上げて、年間1万円程度で運用できるような気がします。

個人的には、今後の将棋界の発展のためにとても重要なことだと思っているのですが、実装・管理のために投入できる時間が私にはありません。それが残念です。

まあ、15年間くらい待っていれば、誰かが作ってくれそうな気もするのですが…ちょっと待てないなぁ。