カタバミをご存知か?




こいつだ。

この クローバーもどきだ。

ワタシが植えたわけじゃない。

勝手にストロベリーポットに侵入し

こうしてわらわらと増えていく。


そらまめは毎朝、こいつらと闘っているんだよ。


何が厄介かって

こいつらは、毟っても毟っても

ゾンビのごとく数日後にははびこってくる。

根っこが残ってたらすぐ復活する。

この根っこというのが

糸くずみたいな、ぼわぼわで

引っ張ったらちぎれて

土の奥に引っ込んでまた、増殖する。

さらに、この根っこをあみだくじのごとく

押し広げ、離れたとこからコンニチハ。

だから、

チョンと呼んでる草むしりの道具で

根元の土をほじ繰り返す。


なんじや?!

地下茎みたいな、球根みたいなふくらみを

土の奥に隠し持ってるじゃん!

こいつで、さらに拡大しようと目論んどるな。


かくて、そらまめ

比喩でなく血眼になって

カタバミの根っこを摘んでは引っこ抜き

摘んでは引っこ抜きしているんだな。



カタバミの花は

血のマナコをくっつける様に観察してみれば

たいそう、可憐な姿をしている。

いっそ、清楚と言っても良い。


毟りながら

思い出にふけることになる。


学生時代

仮に名前をつけるなら

カタバミ子ちゃんという知人がおった。


首が細く

栗色の髪は

シルバーの髪留めで

ゆるくまとめられ、

いつも小花模様のワンピースを

ふんわりと着こなしていた。


永遠の少女。


そんな呼び名がピッタリの風情と裏腹に

彼女はいわゆる、肉食系であった。

ガッツがあった。

ハンドバッグの中の手帳は

合コンの予定でびっしり。

合コン相手も厳選している。


「そらまめちゃん、

 合コンなら何でも良いってわけじゃないわよ。

 未来に繋げるのよ。

 あたし、せっかく

 姿形が清楚な感じだから

 これを最大限利用するわ。

 田舎じゃ手に入れられない人脈を!

 これが、女子大生になった最大の目的!」



ああ、

カタバミちゃん。

あの時のあなたの横顔を思い出す。

いっそ、清々しいほどの

上昇欲。


なよなよとした物腰にだまくらかされた男性が

カタバミちゃんに絡め取られ

吟味の末お眼鏡に敵わず

ポイと捨てられたという噂話を

学食で耳にしたこと数知れず。



彼女は時々

一人で本を読んでいるワタシの横に

すいっと座ることがあった。

細い指で メンソールタバコを取り出し

横ざまに咥えて

唇の脇から

ヒュウと煙を吐く。


「色々、きいてンでしょ?」


うん。


「全部ホントだからサ」


うん。


「言われて当然」


そう?


「そう。」


そうか。


「いいんだ。

 あたし、なにがなんでも

 お医者のオクサンになるんだもん。」


うん。

がんばれ。


「応援してくれんの、

 そらまめちゃんだけよ。」


そんな事ないんじゃない?

みんな、羨ましいから噂してんだよ。


「がっついてンのが羨ましいの?」

と、白い喉をのけ反らせて笑う

カタバミちゃん。


ちがうよ。

自分の欲求とか希望に

正直ド直球に生きてるカタバミちゃんが

ホントは羨ましいんだよ。

やってみたいけど、出来ないし

公言もしないからさ。


「そらまめちゃんは?

 あたしが 羨ましい?」


いや、

特には。


また、白い喉が

は、は、は、と笑う。



カタバミちゃんは

その後、見事お医者のオクサンになった。

ハゲでチビのお医者だったと

結婚式に呼ばれたひとたちが噂してた。


カタバミちゃんなら、

ハゲでチビの夫と、

絶対に幸福になったろう。


ワタシは

そんな気がしている。



カタバミは

強いから。