ノックをすると中から声が聞こえ
私は恐る恐るドアを開けた。
確かにケイの言う通り、
リーダーと呼ばれるその人は
普通の人間のように思えた。
普通の人間より頭の切れる、
優秀な人だと。
リーダーは私をゆっくりと見据えると
その強い眼差しを、緩く下げて
優しく甘く微笑んだ。
『こちらへ、どうぞ。
ケイから炎の中に女の子が居たと聞いてね、
どんな子かと気になっていたんだ。
わたしはタク。
君の名前を、聞いてもいいかな?』
〈あっ、はい。私はトモです。〉
『トモ、くんか…
時間がないから、要件を言おう。
ここに来てもらったのは、
今世間を賑わせている話題についてなんだ。』
〈話題…?ですか?〉
『ああ。今回君は目撃してしまったから打ち明けるけど。
君はあの炎の中で、なにか人間のような、
悪魔のような者と出逢ったか?』
〈ああ、はい。出逢いました。
炎を撒き散らしていました。
声がしました。低い唸るような声が。〉
『声?あの場に居た誰も声など聞いていないが…
どんな声だった?』
〈人間の声のようにも機械の音のようにも聞こえました。
えっと…その人は私と目を合わせてこう言いました。
“この世に本当に存在するとはね…
こちらには来ない方が良いぞ。”と。
それで私は標的にされず、
あんなに近くに居たのに
何も危害を加えられませんでした。〉
『そうか。
君の話と、ケイから聞いた話とでは相違点が2点ある。』
〈相違点、ですか?
あの…もしかして私を
あの男の仲間だと疑ってるんですか?〉
『いや、そう捉えられてしまったなら申し訳ない。
普段からの癖でね、
なんでも問い詰めて質問したくなる。
申し訳ない。
しかし、これは奴らと戦い抜くための
何かきっかけになるかもしれない。
君の話を聞かせてくれないか?
私は君を疑ってるわけじゃない。
もしそうなら、
ここで1対1では話さないだろう。』
〈そうですね。すみません。
最近、いろんな事があって
敏感になっていたのかもしれません。
お話を続けてください。〉
『分かってくれて、ありがとう。
相違点の話だったね、
まず一つ目は先ほども言った声だ。
ケイたち、警備隊には声は聞こえなかった。
ただ猛烈な匂いと奴の唸り声だけが響いたと。』
〈猛烈な匂い?〉
『それは、気づかなかった?』
〈はい。
もしかしたら煙のせいで
鼻が利かなくなっていたのかもしれません。〉
『炎の近くに居すぎたのかもしれないね。
あともうひとつは、君を逃がしたという事。
その君に聞こえた言葉にも
何か意味がありそうに思えるね。
それに、警備隊の中には
奴と目が合って気絶したのも居るんだ。
数秒間、その会話をしている間だけでも
君は奴と目を合わせても大丈夫だったと。』
〈気絶…ですか…
確かに、男の声を聞いている間、
目が合っている間、
頭の中にぐるぐる言葉が
渦巻くような感覚には襲われました。
もし、私にだけ男の声が聞こえたなら、
私もあなた方と違って
普通の人間ではないという事かもしれません。〉
『それはどういう意味?』
〈さっき、案内してくれた
ケイさんにはお伝えしたのですが…
私には過去の記憶がありません。
あの炎の日より以前の記憶がないんです。
気が付いたら群衆の真ん中に立ち、
炎を観ていたんです。〉
『そうか。君の過去に何か関係してるのか・・・?』
〈それに私、人とは違うようなんです。〉
『どういう?』
私にこんなに
真剣に向き合ってくれる人は初めてで
私は自分の秘密を。
自分だけの秘密を打ち明ける事にした。
炎の日より前の記憶がない事ともうひとつ、
私の身体には不思議があった。