その時の私は、
頭の中の
いろんな疑問や感情と
向き合っていたからか
隣に来た彼に、気づかなかった。
「ここに居るのは危険だよ。
早く逃げなさい。」
優しく柔らかに、歌うように
耳に届いた言葉に顔を上げると
1人の青年が立っていた。
炎に照らされたその横顔は、
シャープな顎のラインを映し出し
より一層肌を透明に映していた。
薄茶色の瞳が私を捉えると、
優しく柔らかく笑った。
彼と会話を続けようと
一呼吸ついた所に
炎の奥から
怒りのような、悲しみのような
悲痛な叫びが聞こえて振り返ると、
先ほどの男が黒服の警備隊たちに
捕えられている所だった。
隣に居たはずの彼は、もう居なくて
警備隊に加わって男に立ち向かっていた。
男は倒れる寸前に、
私と目を合わせて
『私の中に棲みつく悪を取り除け。
これから彼らの増殖が始まる。
もう手遅れかもしれん。』
男はそう言い残し、
その場で気を失った。
その後、消火活動が行われ、
私はその場を離れた。