先日、A社の人事課長から、若手社員の離職をどう防いだらよいか、相談を受けました。

「昨年4月入社の新卒社員は既に4分の1が退職した。長く取り組んでいるメンター制度も成果が出ていない。社長からは直々に緊急課題として取り組むように指示された。」と、もの凄く悩んでいました。

 以前からA社にはPMVVが根づいていないように感じていたので、私は、まずはそこを指摘しました。

 

 PMVVとは、パーパス、ミッション、ヴィジョン、ヴァリュのイニシャルを指します。経営哲学や理念、PMVVの意味を社訓に含ませている組織もあると考えます。

 

 A社の公式サイトにも経営理念が明示されており、立派な社訓もあるようですが、社内の掲示物にPMVVを目にすることは全くありません。経営理念が社員に伝搬し根づく努力をしているかの問いにも、課長の回答はNOでした。

 

 PMVVについて経営者や幹部社員が常に語り、可視化させミーティング等でその都度ステークホルダーに認識させる効果は、特に従業員の帰属意識に大きく影響します。

 

 私は、離職者防止の対応策として、まずはそこをポイントとすることをお奨めしています。

 

 ところで、現代の経営者層の多くはX世代に属していると言われます。日本の高度経済成長時代を担った団塊の世代が上司あるいは先輩だったアナログ世代です。

 

 一方で、従業員世代は『失われた30年』『リーマンショック』を生きてきたY世代(ミレニアル世代、現30~40歳代)と、多感な子供の頃からスマホやSNSに触れ、東日本大震災やコロナ禍を経験したZ世代(現10~20歳代)です。

 幹部社員の中には、彼らとの価値観の相違を大きなギャップと考えてしまい、離職防止対策は相当に困難な課題と捉えがちです。しかし、本当にそうでしょうか。

 

 社会が禍に直面して、心に少なからず影響を受けているZ世代は、実は他の世代に比べ、社会正義や環境問題に対し関心が高く、職業に社会性を求める傾向にあります。

 会社のPMVVは「お飾り」ではなく、まさに自身の「生きる理由」とすると向きもあり、個人と会社のパーパスの類似性を潜在意識の中で求める世代だと感じているのは私だけでしょうか。

 

 今回のことで、ある古典の一節を思い出しました。

 それは『言志四録』という江戸末期の儒学者佐藤一斎の著書に記載されています。私が考える会社組織に合わせた解釈も添えます。

 

「民の義に因りて以て之を激し、民の欲に因りて以て之に趨(おもむ)かしめば、則ち民其の生を忘れて其の死を致さん。」

 

【解釈】部下が正しいと考えていることを察してこれを励まし、部下が意欲を示す方向に促せば、命がけで事に当たるであろう。

 

 経営者の皆さんには、Z世代こそ将来の大切な人的経営資本と考えていただくことを忘れてほしくないですね。