キャリア支援の専門家として独立した当初、まずは自分の存在を知ってもらわなければ始まらないと考え、知名度アップを真っ先の課題に掲げていました。今どきですからSNSでの発信はもちろん人脈作りにも奔走しながら、頭の片隅では焦りを感じていたような気がします。当コラムへの執筆もその手段の一つと捉え、当初は請け負っていました。しかし、連載開始から半年くらい経過した頃、有難いことに『論語』の一節に、冷水を浴びせられるような衝撃を受けました。
「人の己を知らざるを患(うれ)えず、人を知らざるを患うるなり」
【意訳】
他人が自分を評価してくれないことを悩む必要はない、それよりも、自分が他人を正しく理解していないこと、知ろうとしていないことの方を問題視すべきだ
この言葉に触れた瞬間、深い反省とともにキャリア支援を業とする者としての原点に立ち返る機会を得ました。もちろん、ビジネスにおいて認知度を高めることは否定しません。しかし、真っ先に考えなければならないのは「自分がどれだけ目の前の『人』を知っているか、知ろうと努めているか」ではないでしょうか。顧客を深く理解せずして、小手先のマーケティングで自分を売り込んだところで、本当の支援などできるはずがありません。これは自分自身への手痛い戒めです。
このことは同世代で、セカンドキャリアとしてコンサルタント業を営む60代前後の仲間たちにぜひとも共有してほしい落とし穴です。
シニア世代は、長年のビジネス経験を通じて、ある程度「人物を見る目」を培ってきたはずです。それにもかかわらず、いざ自分が独立して新しいキャリアを築こうとすると、不思議とその貴重な経験をそっちのけにしてしまいがちではないでしょうか。「儲かるビジネスモデルは何か」「生き残りの戦略と獲得すべきスキルは何か」と形のあるノウハウばかりに目を奪われてはいけないと思うのです。
コンサルタントの本質は、スキルを振りかざすことではなく、これまでの人生経験を総動員し、目の前のクライアントの悩みや可能性を、誰よりも深く知ることにあります。現役時代に培った最大の武器は、最新のビジネス理論ではなく、泥臭く人と向き合ってきた経験そのもののはずです。ただし、過去の経験だけに頼り、昔ながらのやり方に固執していいわけではありません。現代の最新テクノロジーやデジタル環境に適応していくことも、セカンドキャリアを生きる私たちの避けて通れない宿命です。新しいツールや環境から逃げずに学び続ける意志を持ってこそ、私たちの「人を見る目」は現代
のビジネス社会で真価を発揮します。テクノロジーという武器を携え、自らをアップデートし続ける姿勢が不可欠なのです。「まずは自分を知ってもらう」という焦りを一度手放そうと思うことです。そして、今一度「私はどれだけ人を知っているか」という問いを自分に突きつけたいものです。他者への深い理解から始まるコンサルティングこそが、結果として息の長い信頼を築き、自分自身のセカンドキャリアを真に輝かせる道だと信じています。
There is no need to worry about others failing to evaluate you; instead, you should be concerned about your own failure to properly understand others or your lack of effort to get to know them.
