シンギュラリティという言葉をよく聞く。技術的特異点のことだという。

2045年ごろに人工知能(AI)が人間の能力を超え、人間と機械が融合し、後戻りできなくなる日がおとずれるらしい。全く何のことを言っているのだかわからない。「人間と機械が融合」っていったいどういう状態をいうのだろう? ある意味、現在でも人間と機械は融合しているのではないのか? 後戻りできなくなるって、いったい何が? 今なら後戻りできるのか? いつだって科学の進歩は、時代の後戻りを許したためしはないのである。

 

一番わからないのは、「人工知能(AI)が人間の能力を超える」ということだ。なにをもって「人間の能力」を超えたと言えるだろう? そんなことを言えるには人間そのものを分かっていなければならないはずだ。ところが我々は人間のことをあまり分かってないのである。

 

人間の持っているいろんな能力の中で、コンピューターも持っているのは「論理」だけである。論理に関してなら、コンピューターはその速さと正確さにおいて人間をはるかにしのいでいる。適切なプログラムを書いてやれば、コンピューターはどんな難しい数学理論でも理解できる。

 

しかし、難しい数学理論を理解できるといっても、コンピューター自身が新しい理論を作り出すということはない。コンピューターは価値観を持たないからだ。どういう定理を作り出すことが価値があるか自分自身ではわからないから、そこはどうしても人間が誘導してやる必要がある。

 

今のところコンピューターが持っているのは論理しかない。今後人間そのものに対する研究が進歩して、人間の感情や衝動をすべて論理に還元できるというようなことがあるならば、コンピューターが人間を超える可能性は出てくるだろう。しかし、人間の心については今のところ全然わかっていないのである。

 

シンギュラリティなどという言葉を持ち出すと、そこに何らかの実体があるかのように思えてくるが、話は初めからアバウトで曖昧である。何を根拠に2045年と言っているのだろう? 科学は新発見が集積していけば累乗的に進歩するものである。産業革命以後は技術的特異点だらけなのだ、当然2045年付近でなんらかのイノベーションがあることは予想されるだろうが、それは今更取り立てて言うほどのことではないような気がする。