オットリーノ・レスピーギの代表的なローマ三部作「ローマの松」「ローマの噴水」「ローマの祭り」。
三部作が収められたアルバムを初めて買った時、選んだのはウラディーミル・ アシュケナージ指揮/オランダ放送フィルハーモニー管弦楽団による SACD ハイブリッド盤で、選んだ理由は SACD で聴きたいとの思いからだけだった。
ところが、この SACD ハイブリッド盤が問題で、SACD の特性をまったく活かしておらず、コンプレッサー過剰使用・平均音量上げ過ぎの音だった。
最近、音楽ソフトの整理を行い、その SACD ハイブリッド盤も処分した。
そのような理由で買い直しとなり、選んだのがリッカルド・ムーティ指揮/フィラデルフィア管弦楽団による CD。
1984年のデジタル録音で、1985年に LP と CD が同時に初回発売された後も、オーディオ・ファイル盤としても評価が高いことから、再発売が繰り返されている。
レコード芸術推薦、レコード・アカデミー賞受賞(1985年)。
デジタル録音のお陰で、現在でも良好な音質の再発盤が手に入る。
聴いて、良好なダイナミックレンジで、まさにオーディオ・ファイル盤に相応しい。
データでも確認するため、交響詩「ローマの松」の収録音量の波形を SoundEngine で見てみる。
上から順に、
第1部「ボルジア荘の松」この CD にはボルジア荘と記されているが、ボルゲーゼ荘とするのが適切
第2部「カタコンブ付近の松」
第3部「ジャニコロの松」
第4部「アッピア街道の松」
平均音量は、第3部「ジャニコロの松」の -38.84 dB と第4部「アッピア街道の松」の -20.76 dB とでは 18 dB もの差(聴感で8倍の音量差)がある。
この、演奏時の音量差を出来る限り忠実に収録した結果が、良好なダイナミックレンジになっている。
ある大手通販サイトの商品レビューにおいて、ムーティ/フィラデルフィア管の CD はほとんどが高評価だが、ごく一部のレビューに、第3部「ジャニコロの松」の終わりに近い部分でのサヨナキドリの鳴き声が聴こえないというものや、ダイナミックレンジが極めて低いというものがある。
私は本格オーディオシステムで聴いているが、鳥の声はちゃんと聴こえる。
確かに響き渡るような音ではなく、この CD の最大音量の箇所よりも 40 dB 近くも小さい音ではあるが。
それが聴こえないというのは、再生機器の問題である。
再生機器の定格出力が小さいと、収録曲のダイナミックレンジを再現するだけの音量に達せず、弱音が埋もれてしまうことがある。
現在、音楽を本格オーディオシステムではなく、ちゃちなヘッドセット/イヤホンで聴く人が多数派になってしまった。
そんな聴き手に合わせて、ソフト制作側がちゃちなヘッドセット/イヤホンで聴きやすいように第3部「ジャニコロの松」の収録音量と第4部「アッピア街道の松」の収録音量との差を生音よりも小さくしてしまうと、ダイナミックレンジの喪失になる。
レビュー主は「収録音量が大きいこと」や「平均音量が大きいこと」をダイナミックレンジが良いことと勘違いしているのだろう。
上記のアシュケナージ/オランダ放送フィルの SACD ハイブリッド盤の音は、そうしたダイナミックレンジ喪失の典型。