エンヤ『Watermark』の新旧マスタリング盤などの収録音量波形解析 | 俳句銀河/岩橋 潤/太宰府から

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20世紀が終わる少し前、CD ジャーナル誌にオーディオ評論家 傅 信幸(ふう のぶゆき)氏の連載コーナーがあった 。

 

その中で、氏の愛聴盤としてエンヤのアルバム『Watermark』が紹介されていた。

 

 

そのアルバムに興味を持った私は、買って曲と録音の良さに感動した。

 

録音は1987-1988年、欧米での発売は1988年。

 

日本では1年遅れで1989年に発売され、国内初回盤の品番は 25P2-2465

 

世界的大ヒットアルバムで非常に多くの再発が繰り返されている(再発盤でも初回盤と同じマスタリングのものは品番も 25P2-2465 のまま)。

 

次のアルバムは1991年の『Shepherd Moons』で、それも録音は良かった。

 

1995年の『The Memory of Trees』と2000年の『a day without rain』では収録音量・平均音量が上げられたが、まだダイナミックレンジが意識されたマスタリングだった。

 

 
ところが、『Amarantine』(2005年)では収録音量・平均音量がかなり上げられ、ダイナミックレンジが狭く喧しい音になってしまった。
 

以前のアルバムの再発盤でも、2009年再発のデジタル・リマスター SHM-CD

『Watermark』品番 WPCR-13298

『Shepherd Moons』品番 WPCR-13299

『The Memory of Trees』品番 WPCR-13300

では収録音量・平均音量が上げられ喧しい音になっている。

 

収録音量・平均音量の上昇は音圧競争の激化によるものだが、その原因はリスニング機器の主流が本格オーディオシステム・スピーカーではなくなり携帯音楽プレーヤー(スマートフォンを含む)・ヘッドセットへと移行したことにある。

 

出力が格段に小さくなったことで、収録音量・平均音量の高い(すなわちダイナミックレンジが狭い)音作りが蔓延し、音圧競争(ラウドネス・ウォー)が起きた。

 

こんな音ばかり聴いていては、耳は劣化する。

 

 

エンヤのアルバムは、初期作品ではインストゥルメンタル(一部スキャットを含む)ものとヴォーカルものが半々だったが、その後はヴォーカル曲主体になった。

 

しかし、歌詞(担当は Roma Ryan)を見ると多くの曲でそれ以前のアルバムの曲と同じ一節が使われており、そのマンネリズムに辟易してしまった。

 

エンヤのアルバムは『And Winter Came...』まで買ったが、次第に聴かなくなり処分して、今手元に残っている CD はいずれも国内初回盤の『Watermark』『The Memory of Trees』『a day without rain』の3枚だけ。

 

『Watermark』品番 25P2-2465『The Memory of Trees』品番 WPCR-550 から3曲ずつ選び、SoundEngine で解析した収録音量波形を掲載(すべて WAV 形式で解析)。

 

<1989年『Watermark』品番 25P2-2465

 

トラック1「Watermark」平均音量 -20.49 dB

とても神秘的で心休まる曲。

 

トラック3「On Your Shore」平均音量 -23.19 dB

静かなラヴ・ソングで、収録音量・平均音量はアルバム中でも低い。

しかし、もしこの曲の収録音量・平均音量を上げて収録すると、他の曲はコンプレッサーを過剰使用してダイナミックレンジを犠牲にしなければならなくなる。

アルバム全体のダイナミクレンジを保つために、このレベルでの収録は必然。

 

トラック7「Orinoco Flow」平均音量 -19.85 dB

アルバムが世界的大ヒットしたのはこの曲によるのだが、私は「On Your Shore」の方が遥かに好きだ。

以上3曲を含め、アルバム全体が素晴らしいマスタリング。

 

<1995年『The Memory of Trees』品番 WPCR-550

 

トラック1「The Memory of Trees」平均音量 -18.97 dB

3分26秒の位置のピークを含めていくつかの高いピークを基準に収録音量・平均音量が設定されており、ダイナミックレンジが良好。

 

トラック7「Hope Has a Place」平均音量 -19.35 dB

1分52秒の位置の最も高いピークを基準に収録音量・平均音量が設定されており、ダイナミックレンジが良好。

 

トラック11「On My Way Home」平均音量 -18.57 dB

これもいくつかの高いピークを基準に収録音量・平均音量が設定されており、ダイナミックレンジが良好。

 

 

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以下は、収録音量波形が ”やや悪い~悪い” マスタリングの例

 

<2009年再発デジタル・リマスター『Watermark』品番 WPCR-13298

 

トラック1「Watermark」平均音量 -15.79 dB

オリジナル・マスタリングの波形に見られる1分~1分20秒あたりのランダムなピークが、デジタル・リマスタリングによって収録音量・平均音量が上げられたために切りそろえられているのが分かる。

 

トラック7「Orinoco Flow」平均音量 -14.33 dB

酷いものだ。

曲の始めから終わりまで多くのピークが切りそろえられている。

このような波形で収録されたものをハイファイな音とは決して言えない。

 

<2005年発売『Amarantine』品番 WPCR-12221

 

トラック1「Less than a pearl」平均音量 -13.92 dB

バッサリ切りそろえられた悲惨な波形。

こんな波形で収録された音を聴いて「いい音」と感じる人の耳は劣化している。