『むしろ幻想が明快なのである』(虫明亜呂無/著)を読んだ。
今年読んだ本の中で、もっとも文字からの吸引力が強かった。
正直言って、題材として取り上げている内容についてはそれほど興味はなかった。
スポーツ、競馬、女優との思い出。
映画や音楽、小説もこれまで一度も触れたことがないものばかり。
だが、著者の視点を通すとそそられるものへと変化する。
甘ったるいだけのリンゴのコンポートにシナモンを振りかけたような。
脂に食べ飽きが生じたあんかけ焼きそばにお酢を入れて味変するような。
違う。なんか違う。
外側にあるものがその人のエッセンスで変化するのではなく、その人のエッセンスに刺激されて自分の中で眠っていたものが変化するような。
これもなんか違う。
よくわからないが、まったく意に介さなかったものが、著者の文章を通してそそられるものへと変わってしまうのだ。
さしずめ、今もっとも観たいのは、映画「テス」。
最近、4Kリマスター版が出たらしい。
映画を観た後に読んだら、また違った印象を持つのではないかと楽しみにしている。