今夜の月は、
ほんのり苺のように赤くて甘い色をしていた。
空は澄みわたり、星々がふるえるように瞬いている。
チャップは調香の庭で、月光をあびながら香草をひとつずつ撫でていた。
夜の風がラベンダーの穂先を優しく揺し、
ローズマリーの背筋をすっと伸ばしていく。
「今日は、きっと誰かがやって来る――」
チャップはそう感じていた。
射手座の満月は、“遠くからのメッセージ”を連れてくると、
昔、ミナのおばあちゃんが教えてくれた。
そして――その予感は当たった。
月の光が差し込む門の前に、小さな影が立っていた。
フードをかぶった少女。
その手には、丸くて不思議な瓶がひとつ。
「……この香りを覚えている気がするの。夢の中で何度も。」
チャップは瓶をそっと開けた。
中からは、乾いたザクロの皮と、オレンジの花びら、
そして月夜に摘まれたワイルドストロベリーの甘い香りがふわりと立ちのぼった。
それは、真実を照らす香りだった。
少女の記憶に、かすかな光がともる。
言葉にはならない何かが、胸の奥から溢れてくる。
「もしかして……あなたは、私のおばあちゃんの香りを知ってるの?」
チャップは静かに瞬いた。
その目には、何百年分もの記憶と、やさしい真実が映っていた。
