初夏の風が吹いていた。
ルミエールの庭では、春に咲いた花びらが役目を終え、若葉が陽の光を受けて揺れている。
チャップは窓辺に座り、風に乗って舞う一枚の花びらを見送った。
どんな花も、いつか散る。
けれど木は悲しまない。
花が終わることを知っているから。
その先に実りがあることを知っているから。
ふと、チャップは思った。
人だけが、終わったものを抱きしめ続けるのかもしれない。
過ぎた季節。
懐かしい場所。
もう会えなくなった人。
変わってしまった関係。
本当は、身体の中では毎日たくさんの細胞が役目を終え、新しい細胞へと生まれ変わっている。
それを怖いとは思わないのに、
心の中の変化だけは、なかなか受け入れられない。
失ったものばかり数えてしまう。
「あの日のままでいたかった」
「あの頃に戻りたい」
そんな想いを、誰もが胸のどこかに抱えている。
その日のルミエールには、静かな風が流れていた。
窓辺で月読みノートを書いていたtoccoも、しばらくペンを止めて空を見上げる。
🌑 双子座の新月。
風の星座が教えてくれるのは、
「手放すことは、失うことではない」
ということ。
終わったからこそ、次の景色が見える。
古い細胞が役目を終えるから、新しい命が生まれる。
自然はいつも、終わりと始まりを同時に抱いている。
チャップは窓を開けた。
やわらかな風が店の中を通り抜ける。
机の上の古い月読みノートが、ぱらりとめくれた。
そこには、以前の自分が書いた言葉。
『まだ見ぬ未来を信じてみる』
チャップは目を細めた。
過去を忘れる必要はない。
大切だった日々は、ちゃんと心の中に残っている。
けれど、そこに留まり続ける必要はないんだよ。
月も巡る🌙
そして物語もまた、新しい頁をめくる時が来ていた📖
窓の外では、見えない新月が静かに生まれている。
見えないからこそ、まだ何色にも染まっていない。
その余白に、どんな未来を描くのだろう。
チャップは風の匂いを胸いっぱい吸い込み、そっと空を見上げた。
その夜、ルミエールには、少しだけ新しい風が吹いていた。