午後の雨が止んだあと、
庭の花たちは、少しだけ色を濃くしていた。


カフェ・ルミエールには、
やわらかな母の日の空気が流れている。


小さな花束を持った人。
照れくさそうにカードを書く人。
遠く離れた誰かを思い出している人。


チャップは窓辺で丸くなりながら、
その静かな時間を眺めていた。


下弦の月は、
“手放し”と“整える”月。


でも今日の月は、
何かを捨てるというより、
忘れていた気持ちを、そっと拾い集めるような夜だった。


カウンターの奥で、
店主が古いティーカップを磨いている。


少し欠けた縁。
長い時間使われてきた、小さな傷。


けれど、その不完全さが
どこかあたたかい。


チャップはふと思い出す。


眠れなかった夜、
背中を静かに撫でてもらったこと。


言葉はなくても、
ただ隣にいてくれた時間。


“愛情”は、
大きな何かじゃなくていい。


毎日の中にある、
当たり前みたいな優しさ。


下弦の月は、
光を減らしながら教えてくれる。


全部を抱えなくていい

でも、大切なものはちゃんと残る


外では、風に揺れた花びらが
ゆっくり石畳へ落ちていく。


終わるもの。
過ぎていく時間。
戻れない日々。


それでも、
優しさだけは、ちゃんと残っていく。


夜になり、
少し欠けた月が空に浮かぶ。


満月ほど強くない光。
でもその静かな明るさは、
今日という日に、よく似ていた。


チャップは目を細め、
窓の外を見上げる。


会えなくても。
言葉にできなくても。


想う気持ちは、
きっと届いている。


母の日の夜。
カフェ・ルミエールには、
今日もやさしい灯りがともっていた。


そして物語は、
“与えられた愛情”から
“自分の中に残るぬくもり”へ


静かに、次の季節へ進んでいく。