― まだ見ぬ地平へ、矢を放つ夜 ―
空は、驚くほど澄んでいた。
月は姿を消し、星だけが遠くまで連なっている。
その闇は不安ではなく、地図のない旅の始まりのようだった。
チャップは高台の丘に立ち、冷たい風を胸いっぱいに吸い込む。
射手座の新月は、「遠くを見る目」と「真実を信じる勇気」を授ける月。
それは、正解を探す旅ではない。
“自分は何を信じて進むのか”を選ぶ夜だ。
足元には、ジュニパーとセージ。
旅人の護符として古くから使われてきたハーブたちが、
闇の中で静かに香りを放っていた。
その香りは、迷いを祓い、視界を広げる。
ふと、チャップの脳裏に、
これまで歩いてきた月の記憶が連なっていく。
湖の底で出会った精霊。
二つの声に揺れた満月の夜。
そして、語ることを選んだ自分。
それらはすべて、
この夜へ辿り着くための「助走」だったと、今なら分かる。
射手座の新月は問いかける。
「安全な場所に留まりますか?
それとも、知らない世界へ矢を放ちますか?」
チャップは空を見上げ、星の流れを追った。
その視線の先に、まだ名のない道が、確かに見えた。
「答えは、行きながら見つけるにゃ。」
そう呟いた瞬間、
胸の奥で何かが“定まる音”を立てた。
それは決意ではなく、信頼。
未来を完全に知ろうとせず、
未知を含めて抱きしめるという選択。
風が強まり、ハーブの香りが夜空へ溶けていく。
まるで見えない弓が引き絞られ、
今にも光の矢が放たれようとしているかのようだった。
射手座新月は、チャップに告げる。
――旅は、もう始まっている。
――地平線は、あなたの内側にある。
チャップは一歩、前へ踏み出した。
闇の中でも、進む方向ははっきりと感じられた。
なぜなら彼はもう、
「探す旅」ではなく、「信じて進む旅」を選んだから。
星々が静かに瞬き、
新しい物語の章が、今、開かれた。
