ロミと妖精たちの物語286 Ⅴー84 生と死の狭間に⑥ | 「ロミと妖精たちの物語」

「ロミと妖精たちの物語」

17才の誕生日の朝、事故で瀕死の重傷を負いサイボーグとなってし
まったロミ、妖精と共にさ迷える魂を救済し活動した40年の時を経て
聖少女ロミは人間としてよみがえり、砂漠の海からアンドロメダ銀河
まで、ロミと妖精たちは時空をも超えてゆく。

 

 

 

TSウイルスとの戦いに命を捧げた神道の巫女王オフクロ様は、八百万(やおろず)の神々を奉りながらも、唯一絶対神の存在をも認めていた。

 

神は意志持つ者の内にあり、また宇宙そのものでもある、そして生きる者どもの魂の中にこそ、神は存在するのだと説いた。

 

オフクロ様の遺産を継承した絵島ケーイチローが管理する高層ビルには、その二つの教会が同居している、最上階には神々を祀る聖殿があり、地下には一部の関係者しか知ることのないザ・ワンの教会がある。

 

マリアはその時、地下の教会で病める人々を愛のエンパシーで癒していたが、ミドリの思念の報せを受けてその日の最後の一人を癒し終えると、そのまま思念の翼を開いて同じ敷地内にある洋館へと移動した。

 

二階の応接間に入ると、ミドリを囲んでケーイチローと秘書のマリーさんが来ていた。

漆喰塗りの白い陰際に置かれた、重厚なローズウッドの書棚の中の神だなから、メグミの女神像は消えている。

 

部屋の中は荒らされた様子もなく、窓の鍵もきっちりと掛かっていた。

 

「マリーさん、防犯カメラをチエックしよう」

ケーイチロは壁掛け式の大型テレビに画像を映し出した。

 

門から内側に向いたカメラは、玄関と植え込みの向こうの南に面した建物が見えている、早送り画像には、早朝に出かけるケージローの姿が現れ、その後には玄関の戸締りをして高層ビルに向かうマリアとミドリの姿を防犯カメラの映像は見送った。

 

さらに早送りをすると、画面の手前から人が現れた。

 

早送りを止めると、スーツ姿の人が二人いる、一人はかなりの長身で、もう一人は小柄で痩せている。

 

「次はビルの監視カメラの映像を見よう」

 

ビルの上部に設置されているカメラは洋館を斜め上から俯瞰するように、洋館の玄関から門の方向を映し出し、撮影された時刻を合わせると、二人の侵入者の姿が映し出された。

 

画面を止めて二人の侵入者に近づいてゆくと、それは金髪の男女だった。

「見覚えあるかな?」

 

「ええ、驚きました、男の方は私の兄、エイリッヒです」

「ふむ、わたしも驚いた、女性の方に心当たりがある、彼女はメグミの母親にそっくりだ」

 

画面を送ると、10分後に男女は玄関から出てきた。

エイリッヒが銀色の大きなバッグを下げている、たぶんその中に女神像が入っているようだ。

二人は門を出て、表に停まっていたリムジンの中に消えた。

 

秘書のマリーさんは、タブロイドを開きリムジンのナンバーを追跡し始めた。

東京タワーを利用してケージが作った、ウエブ網の中の一つに首都の交通監視網がある。

 

「我が娘を持ち出したのは泥棒では無いようだ、彼らは女神像を傷つけることは無いだろう」

ケーイチローは、ホッとしたような表情で言葉を続けた。

「マリア、マックス氏に連絡を取れるかな」

ケーイチローの言葉にマリアは頷き、思念の翼を開いて兄エイリッヒ・フォン・マックスの携帯電話に接続しようとしたが、それは通じなかった。たぶん、兄より強いEPの持ち主、メグミによく似た女性がバリアーを掛けているようだと、マリアは思った。

 

「理事長、リムジンは中央高速を西に進み、小淵沢インターで下りたようです」

「そうか、だとすると目的地はやはり、かつてナツミの魂が過ごした八ヶ岳だな」

 

「マリア、覚えているかな、TSウイルスとの戦いで、あなたが通信したオフクロ様の洞窟を」

「ええ覚えています」

「メグミと共にオフクロ様がナツミとヘルガの魂を、洞窟の神殿で守っていたことが有る」

 

「あなたはケージを連れて、八ヶ岳の洞窟神殿へ行ってもらえるだろうか」

ケーイチローの言葉に、マリアは毅然とした表情で応えた。

「もちろんですお父さま、責任は全て私に有ります」

 

マリアは傍らにいるミドリに思念を送り、ミドリは自分の胸に飾る勾玉を握ると、二人は大学病院の研究室にいるケージローと、その中にいるケージの魂に向けて事象の思念を送った。

 

 

次項Ⅴー85に続く