ロミと妖精たちの物語265 Ⅴー63 TSウイルス⑫ | 「ロミと妖精たちの物語」

「ロミと妖精たちの物語」

17才の誕生日の朝、事故で瀕死の重傷を負いサイボーグとなってし
まったロミ、妖精と共にさ迷える魂を救済し活動した40年の時を経て
聖少女ロミは人間としてよみがえり、砂漠の海からアンドロメダ銀河
まで、ロミと妖精たちは時空をも超えてゆく。

 

 

 

メグミの思念の言葉を聞いた後、ケージは愛の妖精ファンションの顔を見た。

 

幼い頃東京へ連れていかれるまでは、パリのシモーヌ小母さんとマドレーヌの家で、二人の妖精親子に愛され、育ててもらったことを思い出した、あの館の屋根裏部屋に、時々現れる叔父さんがいて、あの人は金貨の壺を使って眠ったり、どこかへ出入りしていたことも思い出した。

 

「マリア、あの宇宙空間で悪鬼と戦う父のために、僕は一時的にメグミの中で眠っていたけれど、眠っているメグミの身体を男の僕が主(あるじ)となって使うことは、出来ないことだよ」

 

そしてケージは、ファンションの青い瞳を見つめて言った。

「ファンションさん、あなたがシーオークの妖精だとしたら、僕の魂をその壺の中に眠らせておくことは出来ませんか、そして何処かに壊れたロボットがいたら、そこにまた取り替えっこをしてください。ロボットが見つかるまでの間に、メグミが精気を取り戻して元気になってくれたら、僕はまた彼女の中で眠って待てばいいと思う」

 

ファンションは目を丸くして、ハンサムな青年の中にいるケージの魂を見つめた。

「まあ、あなたロボットになってしまうつもりなの?」

「ええ、出来ればハンサムなアンドロイドが希望ですが」

 

ケージは珍しくジョークを込めて言ったが、愛の妖精は小首を傾げた。

「もしかして、美人のアンドロイドがご希望かしら?」

 

「いえ、僕にそんな趣味はありません」

ファンションは優しい笑顔で、まじめに応えるケージに言った。

「おばかさんね、冗談ですよ」

 

二人の会話を聞いて、マリアはメグミと思念を交わした。

――メグミ、あなたはどう思いますか。

 

――それでいいと思います、それまでその壺は、この部屋に置いてください。

――それから、ウイルスとの戦いはまだ終わっていないようです、父から連絡があったら、私を起こしてください。

 

――わかりました、早く回復するように祈ります、今はゆっくりおやすみなさい、、メグミ。

 

「ケージ、あなたが生き残るには、今のところそれしか方法はないようです」

 

マリアの言葉を聞いて、肉体を失っているケージは魂の死を、完全なる死を怖れた。

 

自分はもっともっと生きて、世界を見てみたいと思っていた。そして今は屈強な若い叔父の身体に馴染んできており、失った自分自身の肉体についてはもう、未練はなかった。

 

「むしろそれが僕の希望です、見て聞いて、推考理解する、知の冒険が出来ればいいのです」

 

「愛の妖精ファンションさん、いまケージが言ったお願いは、叶うことなのでしょうか」

 

「そうね、魂だけを移動させるなんて経験は無いけれど、彼を壺の中に入れるのに必要な何か、そうだわ、パワーストーンになるような、宝石のようなものが有ればいいと思うわ」

 

すると、マリアの後ろにいた巫女少女、翠(みどり)がそれに応えた。

「マリア様、メグミ様が持っていた宝石、勾玉はどうでしょう」

翠は胸元からそれを出し、手のひらに載せて二人の前に掲げた。

 

愛の妖精は勾玉を見つめ、思念を使って話しかけた。

 

すると妖精の心に応えるように、勾玉は神器の力を開き、中から青白い光を放ち始めた。そしてその光は虹色となり、ゆっくりと渦を巻くように周囲に広がり始めた。

 

妖精ファンションは思念を止めて、神器勾玉を掲げている翠の手のひらの上から、包み込むように両手でそっと蓋をすると、虹色の光は塞がれて見えなくなった。

 

「すごいわ、こんなに強い宝石は初めてよ、まさしくこれがパワーストーンというものかしら」

ファンションがそう言って手を離すと、勾玉は元の碧い宝石に戻った。

 

「マリア様、彼の願いどうり、壺の中で眠ってもらいましょうか」

「そうですね、ケージそれでいいのね」

 

マリアの言葉に、ケージは黙って頷いた。

 

「それでは翠さん、その宝石を右の手で、彼の額にあててくださいな」

そう言って、ファンションは翠の左手を自分の胸に押し当てた。

「ケージは私の眼を見るのよ、そして私を求めて祈るのよ、いいかしら」

 

ケージはファンションの青い瞳を見つめた、そしてファンションの思念に合わせてマリアが祈りのエンパシーを勾玉に送ると、勾玉から虹色の光の渦が湧きおこり、その渦は翠の腕に巻き付き、翠の身体は虹色に染まってゆき、やがて左の肩から渦巻きが出て彼女の白い腕を巻きながらファンションの胸に届いた。

 

「今彼は私の中にいます、壺の中には私が連れて行きますが、私はそのままアイルランドに帰りますので、あとはお願いします」

 

「ファンションさん、彼を呼び戻すときはどうすればいいのですか」

「今のとおり、翠さんが壺に宝石をあて、魂の媒体となって行先に繋いでくれればいいのよ」

「わかりました、ファンションさん、ほんとうにありがとうございます、感謝いたします」

 

「それではマリア様、私はケージと共に壺の中に戻ります」

彼女は愛らしく微笑むと、来た時とは逆に、愛の妖精が彼を連れて壺の中に入って行った。

 

そして、残された逞しい身体の本当の持ち主、ケージロー・エジマは目を覚ました。

ベッドに眠るメグミを見てから、目の前にいるマリアを見て、彼は驚いたように声をあげた。

「あれ、いつの間にかメグミが眠っている、マリア、きみの方はもう大丈夫なの?」

「ええ、あなたのお蔭で元気を取り戻しました」

 

マリアは逞しい男の手を握りながら言葉を続けた。

「あなたの可愛い姪っ子さんは、私の看病に少し疲れたみたいで、今は眠っているわ」

 

「可愛いい姪っ子?そうかな、僕には強くたくましい姪っ子だと思うのだが」

 

次項Ⅴー64に続く