ロミと妖精たちの物語228 V-26 死と乙女⑯ | 「ロミと妖精たちの物語」

「ロミと妖精たちの物語」

17才の誕生日の朝、事故で瀕死の重傷を負いサイボーグとなってし
まったロミ、妖精と共にさ迷える魂を救済し活動した40年の時を経て
聖少女ロミは人間としてよみがえり、砂漠の海からアンドロメダ銀河
まで、ロミと妖精たちは時空をも超えてゆく。

 

 

 

ノートルダム寺院の敷地の端にある、大きなマロニエの木の地下に隠されたカタコンブの空間に、宇宙少女マリアが掲げている、ドラゴンボウルの光の渦が広がってゆく。

 

その虹色の光を受けて、ロミの思念の翼は次第にアンドロメダの輝きを取り戻していった。

 

洞窟の壁際で石のように固まっている父博士によく似た男は、ロミの愛と癒しのエンパシーに包まれて、長きにわたり心の底(イド)に眠っていた、エジマ家の記憶の扉を開いていった。

 

――さて、どこから話をしようか。

 

男は唐突に思念を使い、ロミに向かって言葉を発した。

 

ロミは男の目から視線を外さず、愛と癒しのエンパシーを送りながら話した。

「私はロミ、あなたはケージ・エジマさんかしら?」

 

ケージ・エジマと呼ばれた男は、座り込んだまま無表情のままで、思念を使って応えた。

――そうだよ、ロミ、キミの従兄にあたるケージ・エジマだ。

 

「どうして私があなたの従妹だと分かったの?」

――僕の記憶の中で、キミは初恋の人でもある。

 

ロミは呆れたように見返し、フィニアンとマリアの顔を見てから、首をかしげて彼に言った。

「ケージさん、あなたは2002年に生まれたと聞いているわ、私は2033年に生まれたのよ、あなたが初恋を知る年令の頃には、まだ影も形も無いのよ」

 

ロミの驚く声に、エジマは少しだけ表情を緩めた。

 

――ロミ、キミは今より少し年齢を重ねた大人の女性だった。

 

「まあひどいわ、私はまだ純情乙女なのよ、あなた、ほんとに大丈夫?」

 

――大丈夫なのか、そうで無いのかは、それぞれの考え方主観による問題だと思うがね。

 

ケージの言葉に、ロミは眉をひそめた。

 

――もちろん僕は大丈夫だよ、ロミ。

 

「そう、だけどよく分からないわね、できれば私に分かるように説明してちょうだい」

 

――いいだろう、ロミ。

――だがその前に、僕はお呪(まじな)いを掛けられているんだ。

 

「おまじない?」

 

――そう、それは2050年の夏、あのときロミはひどい事故に遭ったのだったね。

――そしてケージロー叔父さんの手術を受けて、キミは特別製の巫女型サイボーグにされてしまったんだね。

 

――その時僕は48才、すでに身も心もひどく病んでいたのだ。

 

 

――そこにいる、シモーヌ母さんとマドレーヌ姉さんに守られて、僕は7才までこの地にいたのに。君のお父さんが生まれると分かって僕は日本に連れ戻された。

 

――全ては、三嶺の巫女の女王、宏美の指し示すまま、いや、そうではないな。

――ケーイチロー父さんの母親である、神州のオフクロ様の思念に呼ばれて、

――僕はパリを離れて東京に帰されたのだ。

 

「ケージさん、何故そこで私のお祖母ちゃんが出てくるのかしら?」

 

――ロミ、我が一族は、まごうことなき、正真正銘の神の使者を守る妖精一族だ、そして神の意志を継ぐものたちは、母なる宇宙・銀河そして太陽系、生命を育む者は何よりも女系が優先するのだ。

 

「女系一族?」

 

――そうだ、僕の父ケーイチローは、ナツミにとっての道具に過ぎない。ケーイチローの精子は僕の姿になったが、メグミはケーイチローの遺伝子は受け継いでいない、あのときたぶん、もう一人の父親がいたのだと思う。

 

――我が一族の男どもは、あくまで神の血を導くための道具にすぎないのだ。

 

――キミと僕の祖父であるケージは、僕の祖母、大和の麻弓に選ばれたあと、キミの祖母、邪馬台の宏美の婿となり、TSウイルスに命を絶たれるまで仕えたのだ。

 

ロミとケージのやり取りを聞きながら、フィニアンは思念でロミに助言をした。

―ーロミ、その話は後にしましょう。

――えっ、だって面白そうよ、この人のお話。

 

――彼は疲れています、まずは何をしに来たのか、その目的を確かめましょう、いいですね。

――分かったわ。

 

「ケージさん、家族の話は後にしましょう。今は何より、あなたが求めているものは、何なのかしら、そして一体それは、どこに在るのかしら?」

 

――そうですね、それを明らかにして、この世界を正しい道へと導かなければなりません。

――それでは、私を縛(いまし)めているお呪(まじな)いを解くために、一つお願いがあります。

 

「あら、どうぞ仰って、それは一体、何なのかしら?」

 

――あなたはもう一度、僕にキスをしなければならないのです。

 

「えっ、出会ったばかりのあなたに?それも血のつながった従兄なのでしょ?無理よ」

――いいえロミ、あなたは砂漠の海で従兄のトニーマックスとキスをしたでは無いですか。

 

「あなた、ほんとうにケージ・エジマなの?変なことばかり言って、どうも怪しいわね」

 

――僕は去年の冬至の朝から、この夏至の間だけ自由を与えられていたのだが、

――昨日から身体が動かなくなってしまった。

――もしかしたらこのまま記憶も遠ざかってしまうのかもしれない。

――そしたらもう、ロミ、あなたに伝えることも出来なくなってしまうのだろう。

 

「待って、ケージさん、その、あなたに自由を与えた人って、いったい誰なのかしら」

 

――ああ、なんだか少し頭がボーっとしてきた。

 

ケージ・エジマはそう言いながら、ぐらりと前屈みになり、そのまま地面に倒れ込んだ。

即座にロミは反応し、彼の肩を受け止めてその首を支えると、彼の顔をしっかりと見た。

するとフィニアンは、思念を使ってロミに言った。

――ロミ、彼の言うとおりにするのだ。

――まあ、ほんとに?

 

ロミはフィニアンを見た後、マリアにも視線を合わせた。

マリアはロミを見つめ、何も言わずに黙って頷いた。

 

「いいわ、分かった、あなたにキスをすればいいのね」

ロミは、静かにそう言いながら、そのふっくらとした唇を、ケージの顔に近づけていった。

 

 

次項Ⅴ-27に続く