ゲストルームで眠っているロミは、トムをめぐる回想と推考の夢の中にいた。
三嶺の洞窟ドームで、月依(つきより)姫に向かって匕首(あいくち)を振り下ろす玉生(たもう)丸を止めようと、二人の間に身を投じた自分に向かって、ミルクマンが瞬時にシールドに変身し、間一髪で鋭い刃を滑らせて自分を守ってくれた、あのミルクマンはいったい誰だったのかしら。
スライゴーで「トムはニューヨークに居るはずだ」とトニーが言ったのに、手紙では銀河の果てに居るとも書かれていたけれど、あのとき玉生丸の刃(やいば)から私を守ってくれたあの人を、私はてっきりトムが来てくれたものだと思っていた。
故郷高知から引っ越して、ニューヨークに転校した小学校で、私に優しく英語を教えてくれた太っちょトーマス、南大西洋のトリスタン・ダクーニャでは、私とアンドロメダにドラゴンと戦う術を教えてくれた思念の使い手トーマス。
そして銀河ワームの世界で共に戦った、大人になった神の使者の子トーマス・ハリスン、いったいあなたは、今何処にいるのかしら。
深い眠りについたロミの枕元に、廊下から開けられたドアの隙間から明かりが差し込み、二つのベッド眠っている二人の姿を見つけて、首をかしげているマリアが顔を出していた。
マリアはそっと部屋の中に入り、ベッドに眠る男の様子を窺った。
外出先で捉えたロミの思念に対して自分の返事が届かなかったのは、この遭難者のせいなのかと思いながら、その顔をよく見てみると――まあ、トムなの?
静かに眠っている男の心を読み取ろうとしたが、今は何も見つからなかった。
そして、もう一つのベッドに眠るロミに近づいて、マリアは彼女の寝顔を確かめた。
穏やかに眠るロミの額にそっとキスをして、マリアは小さく微笑んだ。この二人なら、危険なことも起こりそうにないなと思い、マリアはこのまま自分の部屋に戻ることにした。
――ロミ、お休みなさい、楽しい夢を見てね。
次項Ⅳ-⑥に続く
