ロミと妖精たちの物語75 Ⅲ-7 Amore失われた時を求めて⑦ | 「ロミと妖精たちの物語」

「ロミと妖精たちの物語」

17才の誕生日の朝、事故で瀕死の重傷を負いサイボーグとなってし
まったロミ、妖精と共にさ迷える魂を救済し活動した40年の時を経て
聖少女ロミは人間としてよみがえり、砂漠の海からアンドロメダ銀河
まで、ロミと妖精たちは時空をも超えてゆく。

 

(中元すず香さん小学6年、出演したミュージカルの中で、癒しの歌を2曲披露しています。約6分23秒)

 

 

 

 

 

 

ロンドン初めてのとき(回想)

 

およそ37年前の事、ロミは南大西洋の孤島トリスタン・ダ・クーニャで、幼なじみの太っちょトーマスの助けを借りて、囚われていた少女神アンドロメダを救い出し、アンドロメダの魂を受け入れて彼女の心眼力を得た。

 

そして、初めてイズモの霊能力者ミドリの力を借りることも無く、自らのエンパシーを使い、悲しき魂たちの宿主ドラゴンを倒し、神に出会えなかった悲しき魂たちを癒し、それぞれの信仰する神の世界へと解放した。

 

その時のロミの活躍が国連保健機関から漏れ、霊的メディアのニュースは素早く伝わり、噂を聞きつけたイギリス本国からの依頼を受け、国連の臨時派遣調査官として、ロミはトニー・マックスと共にウエストミンスターを訪れた。

 

到着早々二人は聖マーガレット教会に案内されて、400年前の内戦で敗れたチャールズ1世の胸像の前で状況を聞いた。二人を出迎えたイギリス政府の国会議員は、国連から派遣された調査官がこの若い二人だったので少し戸惑っていたが、依頼する内容と目的を説明した。

 

国会議員は、教会のテームズ川に面した壁に嵌め込まれた胸像を見上げて言った。

「こちらの胸像は400年前の内戦で敗れた国王軍の司令官、チャールズ1世です」

 

そして道路の反対側に向き直ると、テームズ川との間に聳えるウエストミンスター宮殿の西に在る、国会議事堂の前に威風堂々と立っている銅像を指さした。

「そしてあちらに立つ銅像は、その内戦で勝利した議会軍を率いたクロムウェルです」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

いかにもジェントルマン風な長身痩躯の国会議員は、少し困った顔をして話を続けた。

「このお二人が夜な夜な寺院の中庭に現れ、騒ぎを起こしているのです」

ロミとトニー・マックスは不思議な話を聞き、お互いに顔を見合わせた。

 

この時はまだ、神に忘れられていた悲しき魂たちの存在を、よくわかっていなかった。

「お二人の銅像が暴れるというのでしょうか」トニーが訊ねた。

「いえ、決して暴れたりする訳ではありませんが、そう、まさに巨大な幽霊が寺院の中庭に現れて、睨みあうのですよ、400年前のあの姿で」

 

 

議員の説明では、それが深夜に起こるので、まだ騒ぎが外部に漏れることは無いが、教会の宗教者や衛士たちが自分の眼で見て、恐怖でパニックを起こしているとのことだった。

「それはいつ頃から、現れるようになったのでしょうか」トニーは聞いた。

「5日前の深夜からです」

5日前といえば、ロミが南大西洋であの悲しき魂たちに出会った日だ。

 

夜になって、ロミたちは寺院に案内され、大聖堂の応接室に入った。

そこには、老人と幼い少女が待っていた。

 

老人は軍服を着ていた、赤い上着には大きな勲章がいくつも付いて、黒いズボンには金のステッチが通っていた。幼い少女は白いドレスに赤い靴を履いている、ブロンドの髪が眩しい、そして透き通るような瞳がロミの眼をじっと見ていた。

 

 

 

 

 

 

ロミはひざを折り、目の高さを幼い少女に合わせてその視線に応えた。

威厳に満ちた老人も、トニー・マックスも、見つめあう二人の姿をじっと見守っていた。

 

ロミと少女は言葉も無く、いや言葉を使わずに会話をしているように見えた。

案内してきた国会議員は、ロミと少女、そして見守る老人とトニーの4人が作り出す霊験な世界に驚き、そしてただ呆然としてその場に立ち尽くしていた。

 

やがてテームズ川畔のビッグベンの鐘楼が鳴り深夜の訪れを告げると、少女はロミの手を取り、老人は応接室のドアを開いた。大聖堂の夜間通用口から4人は広場へと向かった。

 

夜間のライトアップが消えて深い闇が広場を包み、どこからともなく現れたワタリガラスの鳴き声が響いた。すると、血まみれの白いトーガを纏った亡霊が広場の中央に姿を現した。

亡霊には首から上がなく、その頭を右腕に抱え、左腕には長い刀を持っていた。

 

そして、トーガを纏った亡霊に誘われるように、向かいの議事堂の銅像の首が動き、足を動かしゆっくりと広場に向かって歩き出した、右手にサーベル左手に兜を抱えた銅像、オリバー・クロムウェルが広場を進み、彼に処刑され首を失ったチャールズ1世の前に対峙した。

 

突然、雷鳴が鳴り響き、眩しい閃光が二人の亡霊の上を走ると、白いトーガの亡霊の首は宙に浮かび上がり、憎悪に溢れたその顔がロミたちを見据えた。トニーはロミの後方で印を結び、瞬時に結界をつくった。暗黒の闇が支配する寺院の広場に、亡霊の顔は見る間に巨大化し、怒りに染まった眼光を輝かせ真っかな炎をロミと少女に放った。

 

 

 

 

 

 

ロミは怯むこと無く、眼を閉じアンドロメダの眼光を開き、少女の手をしっかりと握った。

 

――大丈夫よ、あなたの戦いは今から私たちの戦いとなったのよ、さあ、あなたのパワーを私に添えて、信じるのよ、一緒にあの怪物を倒しましょう。

 

ロミは少女の霊力を得て、アンドロメダの鋭い眼光ビームを怪物に向けた。

 

巨大な顔の怪物は、なおも火炎を放ち、ロミと少女を守るトニーの結界を崩そうとするが、アンドロメダの鋭い眼光に押し返される。だが怪物は、400年にわたる怨嗟と憎しみを火炎にして襲い掛かってくる。

 

ロミはエンパシーを広げ、ウエストミンスターに眠る精霊たちを呼び覚ました。

 

しだいに集まってくる精霊のパワーが増幅し続け、それは少女メアリーを通じてロミを力付けてゆき、アンドロメダの眼光は更に強く輝き、青い光となって怪物の眼を襲った。すると怪物の巨大な顔に青い稲妻が光り、吐き出す火炎は自らの顔を焼き尽くし、巨大な頭は真っ赤に染まって爆発し、それは瞬く間に消滅してしまった。

 

 

二人の亡霊が崩れ落ちると、そこから無数の鬼火が現れ、広場の中央に揺らめいた。

ロミはアンドロメダの眼光を閉じ、南海の孤島で学び覚えた、あの心眼を開いた。

 

――さあ、メアリー、あなたも祈ってあげて、あの可哀そうな、悲しき魂たちのために。

 

――はい、私も祈ります、あの可哀そうな人たちのために。

 

戦火に倒れた兵士たち、罪も無くこの広場で処刑された人々、神を失い天国への道を見つけられずにさ迷う魂たち。幼い少女メアリーは、臆することなくロミの言葉を信じた。二人は無数の鬼火たちを、愛のエンパシーで癒し慰め、カトリックも、プロテスタントも、神への扉を開いてあげることが出来た。

 

 

全ての鬼火が霊となって神に導かれて行くと、崩れ落ちていた二人の偉人は再び立ち上がり、ロミとメアリーにほんの一瞬笑顔を見せて、そのまま元の祭壇へと戻って行った。チャールズ1世の首は聖マーガレット教会の壁に、クロムウェルは国会議事堂の前に戻った。

 

偉人たちを見送ると、ロミとメアリーはしっかりと抱き合った。

――ありがとう、ロミ姉さま。

――あなたが祈ってくれたから、みんな天国へ行けたのよ、ありがとう、メアリー。

 

二人を祝福するように、ビッグベンの鐘楼が夜明けを告げるチャイムを鳴らしはじめた。

 

 

 

次項 Ⅲ-8に続く