ロミと妖精たちの物語251 Ⅴ-49 死と乙女㊴ | 「ロミと妖精たちの物語」

「ロミと妖精たちの物語」

17才の誕生日の朝、事故で瀕死の重傷を負いサイボーグとなってし
まったロミ、妖精と共にさ迷える魂を救済し活動した40年の時を経て
聖少女ロミは人間としてよみがえり、砂漠の海からアンドロメダ銀河
まで、ロミと妖精たちは時空をも超えてゆく。

 

 

 

人類を滅ぼすかもしれない悪鬼の彗星に向かって、飛翔するドラゴンの背中には、ケージの身体に入った父ケーイチローと、思念の翼を開いて彼を護る、聖少女マリアの幻影が乗っている。

 

天の川銀河の亜空間を、猛烈な速度でドラゴンは進み、もう目の前には、燃焼ガスを放出しながら炎の飛跡を残す、巨大な岩と氷の塊が迫っている。

 

ドラゴンは自分の背に載せて、少しだけだが、心配げに見守っていた聖少女に言った。

「マリアよ、もうここまでだ、これ以上近づくと、あんたの実体はひどいことになる、メグミの父親はオレと一緒に突撃する覚悟が出来ている。もう既に、オレたちは宇宙線にも冒されているから」

 

続いてケーイチローがマリアに言った。

――マリア様、わたしも彼も、神の国への切符は頂いた。

――このままケージの眼に取り付いていてはいけない、さあワームに戻ってください、マリア。

 

――わかりました、でもその壺を封印している勾玉を持って帰らなくてはなりません。私が離れたら、あなたはもう呼吸することもできません、いいのですね、その時が来たら、合図をしてください。ケーイチロー、そしてメグミのペルセウス・ドラゴン、あなた達に神のご加護を祈ります。

 

マリアは飛翔する二人の英雄に向かって、大いなる愛と癒しのエンパシーで包んだ。その愛の心を受けて、ケーイチローは息を止めると壺の封印を外し、マリアの手にその勾玉を渡した。マリアはケーイチローの手を優しく握ったあと、その空間を離れ、ワームホールの入り口へと戻った。

 

――ケーイチロー、お前も隅に置けんな。

――聖少女は、お前が神の国まで行くのをちゃんと護ってくれている。

――さあ行くぞ色男、前を見ろ、あれがオレたちの天国の入り口だ。

 

ドラゴンは更に強く、その偉大なる翼を羽ばたかせ、一直線に彗星の軌道に飛び込んだ。

 

 

 

 

英雄たちは彗星に激突し、宇宙空間には広島級の原爆の一万倍はあろうかと思える爆発が起こり、ヒトラーが発見した災いの壺は消滅した。そして悪鬼の彗星の巨岩と氷塊は、地球の引力圏から外れ、バラバラに分離して、それらは太陽の方角に向かって吸い込まれて行った。

 

メグミは幻影のマリアを抱きかかえて、ワームホールを閉じながら地下の会堂に還った。

メグミはザ・ワンの十字架からマリアの本体を解き放ち、白いトーガを着せて祭壇に寝かせた。

そして、もとの黒い戦闘服を着ながら、自分の体内にいるお袋さまに訊ねた。

 

「お祖母さま、ケージはどうなってしまったのかしら」

――可哀そうだが、あの子の実体はもういないのだ、ケーイチローの魂と共に、ケージの身体は太陽に吸い込まれて行った。

「まあ、ほんとうに?もうケージはいなくなってしまったのですか?」

 

――まずは、マリアの実体を損なわぬように、しかるべき場所へと運ぶのだ。

「それで、ケージはどうなるのですか」

 

――それは後のことだ、よいかメグミ、お前はマリアの身体を守ってブランデンブルグ門の広場へ運ぶのだ、そこにマリアを守るべき者が現れるはずだ。

 

お袋さまの言葉はどこまでも冷たく、メグミはそれ以上、ケージについては言うのを止めた。

 

聖少女マリアを抱いたまま、メグミはヴィルヘルム通りを北へ歩き、もう新年の太陽が昇り始めたブランデンブルグ門の広場に到着した。かつて東西を分けた壁の跡の前で、姿を現した新年の太陽が中空に上がると、メグミはあらためてケージを失ったことの重さをヒシヒシと感じ入り、ずっと堪えていた涙が頬を伝ってゆくのを抑えきれなかった、太陽の光に涙の向こうに揺らめく悲しみと孤独を感じて、一人ぼっちのメグミは思わず膝を落としてしまった。

 

すると、マリアを抱いたまま俯き泣いていたメグミに、青年が声を上げて駆け寄って来た。

「君たちどうしたの、大丈夫ですか」

大柄な日本人の男、メグミはどこかで見たことが有るような気がした。

 

「これはひどい、さあキミ、女の子は僕が抱き上げましょう」

そう言って、彼はマリアの身体を抱きあげてから、メグミに言った。

 

「ぼくは、シャリテ(総合大学病院)の研修医です、この少女の病状もそうだが、キミも大分疲れている、このままではいけない、今からシャリテに行って診察しましょう」

 

昨夜からの強行で疲れ切っていたメグミは、その若者に身を委ね、マリアの身体を預けた。

「ありがとう、私はメグミよ、あなたの名前は?」

 

彼は逞しい腕でマリアを抱き上げると、少しはにかんだ笑顔を見せて言った。

「僕はケージロー・エジマ、日本から来た研修医です」

 

次項Ⅴ-50に続く

 

 

(画像および動画はお借りしております)

 

この物語は半分の史実と、BABYMETAからLのインスピレーションによる、フィクションです。