ロミと妖精たちの物語222 ⅴ-20 死と乙女⑩ | 「ロミと妖精たちの物語」

「ロミと妖精たちの物語」

17才の誕生日の朝、事故で瀕死の重傷を負いサイボーグとなってし
まったロミ、妖精と共にさ迷える魂を救済し活動した40年の時を経て
聖少女ロミは人間としてよみがえり、砂漠の海からアンドロメダ銀河
まで、ロミと妖精たちは時空をも超えてゆく。

 

 

 

凱旋門のエトワール(星の広場)から、ロミと妖精たちは天使の翼を背中に広げ、夕暮れのパリの空に浮かび上がった。

 

ザ・ワンの遺伝子を持つ妖精たちは、マドレーヌ寺院で授かった天使の翼の妖力と、ノートルダム寺院の精霊たちのエンパシーで、パリの空を飛ぶことが出来るのだが、フィニアンは既に経験豊富な子持ちの身、乙女たちのように天使の翼を使うことは許されず、彼はトネリコの杖で見えない馬車をつくり、シモーヌ姉さんを乗せて後を追った。

 

人間には、妖精たちの姿を見ることは出来ないのだが、シャンゼリゼ通りを歩いていた超能力者たちには、鳥たちには妖精が見るように、ロミと妖精たちの姿を見ることが出来た。

 

彼らは精霊たちと共にロミに向かって友情のエンパシーを送った。ロミはそれが、かつてサイボーグだった時代にドラゴンから解放した超能力者たちだと分かり、彼らの思いを受け取ると、懐かしさと嬉しさが込み上げて、歩道から見上げている仲間たちに向かって微笑んだ。

――ありがとう大丈夫よと、思念で応えながら、愛と感謝のエンパシーを返した。

 

そしてノートルダム(聖なる母マリア)大聖堂のあるシテ島に降り立つと、寺院の庭の片隅の大きなマロニエの根元まで歩き、閉じられた洞を前にしてロミを中心に妖精たちは深く、強く、愛と癒しのエンパシーを放った。

 

そしてマロニエの樹に夜の帳が下りてくると、ノートルダム大聖堂の大鐘エマニュエルは、幾度かの災禍を乗り越えてその霊力を増してきた鐘の音を、広く高くパリの空に響かせた。

すると洞の入り口は開かれ、ロミと妖精たちは目と目を見合わせ頷き合い、地底へと下った。

 

地底のカタコンブに降り立つと、フィニアンは静かにトネリコの杖を地表に突き刺した。

ロミたちの前に立ち、手を合わせて目を閉じ深く瞑想し、力強い思念の言葉を投げかけた。

 

――汝(な)れに触れた我が妹(せ)の唇(くちびる)に、何の過ちが在るというのか。

――汝(な)その思いの狭間に哀しみを残し、失われたものは何処に有るというのか。

――応えよ、我が昔日に写したる美影の、聖なる紙片の在りかを。

――応えよ、天の国へと導く、此方聖なる美少女、ロミ・アンドロメダに何を望もうというか。

 

暗い洞窟の中で見得を切るフィニアンに、マドレーヌは肩をツンツンして言った。

「ねえ、フィニアン叔父さん、彼なら、もうそこに来ているわ」

 

洞窟は観光コースにあるカタコンブとは違い、意外に狭い空間だった。

そこにエジマは正座をし、両手を合わせて、ロミと妖精たちを見上げていた。

 

「うむ、どうして気づかなかったのだろう」

フィニアンは地底からトネリコの杖を抜いて、それをクルリと回した。

「さて、生きているのに、死んだふりをする墓守男エジマよ、応えてみよ!」

 

エジマはフィニアンの問いには応えず、小さな声で四国遍路の般若心経を唱え始めた。

ロミはそっとフィニアンの腕を取り、――後は任せて、と思念で伝えた。

エジマの前に正座をし、目を閉じて彼のお経を受け取ることにした。

 

エジマの読経を聞きながら、無の境地にあったロミに、マリアからの思念が送られてきた。

――ロミ、彼はやはり生きていないわ、そして死んでもいない。

――もしかしたら、彼はアンドロイドではないかしら。

 

読経が終わると、ロミはエジマを見据えたまま、隣に座るマドレーヌの手を握った。

「マドレーヌ、どうしてこの人を救いたいと思ったの」

「えっ、私が救いたいと思ったのかしら」

「ちがうと言うの?マドレーヌ、私はあなたに誘われてここまで来たのよ」

 

ロミはそう言いながら、次にはシモーヌ伯母さんの手を握った。

「歌ってくださいな、あなたの思いを隠さずに」

伯母さんはちょっと首を傾げた後に、ロミの言われた言葉をかみしめてから唄い始めた。

 

 

 

 

ロミは伯母さんの肩を抱いて言った。

「これは伯母さんが仕組んだお芝居ですね、まるでミュージカルのように」

シモーヌ伯母さんは、ロミの腕の中で、口元に微かな笑みを浮かべたまま目を閉じていた。

ロミは、まあいいかなと思いながら、そのまま伯母さんの肩を抱いていた。

 

エジマの読経を心に受けて、ロミは今日の出来事を、そして絵島家の悲しみを知った。

 

伯母さんは話してくれた。ロミが生まれる前に死んでいた祖父ケージ・エジマのこと、そしてロミの父博士には年の離れた兄がいた。画家であり科学者でもあった、ケーイチロー・エジマ。

 

ロミの祖父ケージ・エジマは、高知にいるお祖母ちゃんとは再婚だった。

最初の妻との間にケーイチローが生まれたが、その妻も早世してしまい、ケーイチローは東京の祖母に育てられ、祖父ケージは年の離れた宏美と再婚した。

東京で育ったケーイチローは、画家を志し芸術大学在学中にパリに留学し、伯母さんの所有する、メゾン・ド・エトワールに下宿していたのだった。

 

「ロミ、どういう訳か、あなたの家系の男たちは皆んな、最初の恋人は神に召されてしまうの、ケーイチローもそうだった」

 

シモーヌ伯母さんは、座り込んだまま動かないケージ・エジマの肩をそっと抱いてから、あらためてロミに顔を向け、静かに話を続けた。

 

 

次項Ⅴ-21に続く

 

 

 

 

 

 

(2年前に書き終えた第3部アイルランド~ロンドン編を貼っておきます)

https://ameblo.jp/tony-max/entry-12279292514.html