ロミと妖精たちの物語174 Ⅳ-60 愛すれど心さみしく⑩ | 「ロミと妖精たちの物語」

「ロミと妖精たちの物語」

17才の誕生日の朝、事故で瀕死の重傷を負いサイボーグとなってし
まったロミ、妖精と共にさ迷える魂を救済し活動した40年の時を経て
聖少女ロミは人間としてよみがえり、砂漠の海からアンドロメダ銀河
まで、ロミと妖精たちは時空をも超えてゆく。

 

 

ザ・ワンの小型宇宙船フェアリーシップは、万里生(まりお)とマリアの二人の操船でニューヨークを飛び立ち、宇宙空間を飛ぶ試験飛行として月に向かったものの、日蝕の月の向こうに隠れていた太陽の磁場に強い影響を受けて、危うくティコ・クレーターに墜落しそうになった。

 

奇跡の男ミルクマンと愛の妖精ファンションの妖精力と、ロミの思念の追跡が間に合い、ユマの意志を目覚めさせることが出来た。

 

フェアリーシップは、間一髪のところで月面衝突の危機を免れたのであった。

 

小型宇宙船の飛行が安定すると、ロミは初めてその助手席に座り、頭上にトリムメットを装着し、あらためて人工頭脳ユマと意思の疎通を図ることができた。そしてお互いの思いを確かめ合うと、ロミは太陽系ディスタンスのワームホールを求め、思念の翼を使って捜索を展開した。

 

後部座席では、おやゆび姫マリアを胸に抱いているファンションを間にして、アイルランドの妖精フィニアンとザ・ワンの奇跡の男ミルクマンが、左右両側から二人の少女を守るように着席していた。そしてファンションは、ロミの思念の展開をサポートするべく、宇宙空間を浮遊する精霊たちに向けて、愛と癒しの祈りを捧げていた。

 

 

――お願い宇宙の精霊さん、ロミと妖精そして私たちに、力を貸してくださいな。

――あなたの愛を、あなたの夢を、私の愛で癒してあげましょう。

――さあ出てらっしゃい精霊さん

――鬼さんこちら、愛ある方へ

 

――火星に届くワームホールはどこにあるの?

――あっちかなぁ、こっちかなぁ。

――さて精霊さん、ワームホールはどこにある?

 

 

(2011年ツインクルスター~約4分)

 

 

 

 

すると、トリムメットに包まれて船の前方宇宙空間を見張っていたロミの視界に、白いトーガに包まれた白鬼の精霊たちが現れた。

 

――まあ、宇宙の精霊さんは、白鬼の精霊さんなのね、来てくれてありがとう。

 

白鬼の精霊たちは、ニューヨークから続いている小ワームホールの前に、神の使者によって解放されていた、あのマザー・マーガレットの巨大ワ-ムホールを連れてきてくれた。

 

精霊たちは巨大ワームを落ち着かせるように銀河の神々の音楽を奏でながら、もちろん真空中に音は伝わらないが、ロミの思念の翼を使って精霊たちは船とワームに音楽を響かせた。

 

そしてゆっくりと、船の後ろに続く小ワームホールと銀河スケールの巨大ワームホールをフェアリーシップの中心点でジョイントさせ、メタリックな音楽が合体するとそれは一つと成った。

 

ワームホールが繋がり、再び静寂が訪れると、ロミは白鬼の精霊たちに愛と癒しのエンパシーを送り、そして愛の妖精ファンションは、自分の乳房の上で眠っているマリアの心の宇宙の中からドラゴンボウルを取り出して、白鬼の精霊たちに宇宙飛翔のエネルギーを返した。

 

そして白鬼たちは姿を消してもとの見えない精霊に戻ると、船の中に入り空気となってロミと妖精たちを護ってくれた

 

――ありがとう精霊さん、この旅が終わるまで、私たちを見守っていてね。

 

 

 

 

ロミは、目の前に現れた以前マザーマーガレットが囚われていた、悪鬼ディアボロの支配していたワームホールを見据えた。あれから神の使者によって自由の身となった巨大ワームホールは、遥か彼方にある小惑星帯の時空へと繋がっていた。

 

――お母さま、お父様、私たちを守っていてください。

 

――ユマ、いいかしら?

ロミの頭脳にユマの青い信号が灯った。

ロミはトリムメットを通して、操縦席に座る万里生に出発の合図をした。

 

ザ・ワンの小型宇宙船は音もたてずに加速をはじめ、ワームホールの中を進んだ。星々の輝きは消え、暗黒の闇に包まれた。

 

そして更に加速を続けると、光の速度と重なるようになったのか、フェアリーシップは白い闇の中を突き進み、それは僅か数分の出来事であった。

 

やがて速度を落とし始めたことが体感されると、前方に見慣れた火星の姿が見えてきた。

そして、火星をやり過ごし小惑星帯に近づくと、あの小惑星から分離した戦艦型に見える巨大隕石がロミの視界に入って来た。

 

 

 

 

――あの巨大な隕石は外から見るとただの岩の塊りに見えるけど、実際はどうなのか着陸して確かめようと思うのだけど、ユマ、何か分かるかしら。

 

時速20万キロで飛行する隕石に、ユマはゆっくりと近づいてゆく。

 

固い岩に覆われている巨大な物体に接近し、ロミの視界に、そして後部座席に座るファンションたちにもスクリーンを通してその威容ははっきりと見えていた。

 

――ロミ、着陸は危険だわ、スキャナーを使って見てみましょう。

 

すると、巨大な岩の塊りの中に、やはり人工物と思われる金属製の物体が映し出された。

 

ユマが想像していたとおり、それは長さ1,000フィートを超える長方形の物体、昔の戦艦そっくりな外形を映し出していた。

 

――これは、宇宙戦艦かしら。

――今のところ攻撃兵器は見つかりません、戦いを目的とした船では無いようです。

――そしてこの中に生存者はいません、すべてが無機質で出来ています。

 

 

――でも、知性が存在しているようです。

 

――知性?

――そう、例えば私のような人工頭脳が存在し、何らかの意志を持っていると思われます。

 

――コンタクトは取れないの?

――ザ・ワンの公用信号を送っていますが、まだ反応は有りません。

――あ、ちょっと待ってください。

 

――ロミ、彼から拒否反応が送られてきました。

――え、彼から拒否反応って、男性なの?

 

ロミと妖精たちは、前方に映し出されている巨大な宇宙船の威容を見た。

 

 

次項Ⅳ-61に続く