ロミと妖精たちの物語170 Ⅳ-56 愛すれど心さみしく⑥ | 「ロミと妖精たちの物語」

「ロミと妖精たちの物語」

17才の誕生日の朝、事故で瀕死の重傷を負いサイボーグとなってし
まったロミ、妖精と共にさ迷える魂を救済し活動した40年の時を経て
聖少女ロミは人間としてよみがえり、砂漠の海からアンドロメダ銀河
まで、ロミと妖精たちは時空をも超えてゆく。

 

 

ロミの可愛いおやゆび姫宇宙少女マリアと、ロミの従弟でありフィニアンの相棒でもある万里生を乗せた、ザ・ワンの小型宇宙船フェアリーシップの姿が夜の宇宙空間に溶け込み、肉眼で見えなくなってしまうと、ロミは小さくホッと息をついた。

 

 

一緒に船を見送っていたフィニアンが、ロミの背中にそっと手を添え言葉をかけた。

「いいものですな、少年少女の冒険の旅の始まり――とでも言うのでしょうか」

「えっ、月まではたった38万キロよ、すぐ戻ってこれるのでしょ?」

 

フィニアンは船の消えた方角を見た。

「どうでしょう、ユマは二人を何処へ案内するつもりなのか」

「フィニアン、何か私に隠していることでもあるの?」

「まさか、わたしがロミ様に隠し事など、あり得ないことです」

 

フィニアンは真っ直ぐにロミの顔を見た。

「ただあのお二人には、まだまだ幼い部分が有ります。マリアは地球人化を始めてまだ5ヶ月、氷の塔のカプセルに守られて千年を超える時を経てはいても、それはザ・ワンの揺りかごで眠っていたようなもの、実際の人生経験の年齢に於いてはまだ17歳の少女です」

 

「あら、私も17歳の少女に見えるってみんな言うわよ」

「ロミ、あなたの40年は眠ってはいなかったでしょう、サイボーグでいた時の経験は、すべてあなたの人生として蓄えられている、見た目の若さとは違いますよ」

 

フィニアンは、真剣に聞き入るときのロミの強い視線に耐えられず、フェアリーシップが消えた夜空の向こうに、昇り始めた白鳥座のデネブの青い光を見た。

 

「そして万里生に至っては自我に目覚めてまだ8ヶ月です、それまでの29年間、眠り続けていた赤子の脳内でたぶんマグマのように蓄えられていたエネルギーを、あなたとマックス卿の起こした奇跡が解き放ち、科学では説明できない急激な成長を見せました」

 

――フィニアンあなた、去年の夏、三嶺で起こった奇跡を知っていたの。

 

「マリアも万里生も、まだ心と頭脳のバランスがとれていないのでしょう、ある意味二人は、空中に張られた危ういロープの上にいるようなものだと思います」

――わたしは、あなたが生まれた時から見てきました。

 

「それで二人にとって、ユマはどういう役割があるのかしら」

――まあ、それではトーマスのことも知っていたのね。

 

「ユマは人工頭脳です。あらかじめ設定された自身のオーナーを守り、オーナーの命令に従うように作られております。ユマを造った人がマリアのお父さんであれば、当然マリアを守るように設定されているでしょうから安心ですが」

 

――そうです、初めて見たマーガレットの美しさに一目惚れしましたから。

 

――まあフィニアンたら、人を見た眼で恋をするの。

 

――ちがいますよロミ、あなたのお母さまマリアも美しかった、お二人とも美しかった。

――何よりも周りの人間を幸せにする慈愛の持ち主であり、

――自分には厳しいほどの高潔な精神をお持ちのお二人でしたからね。

 

「マリア、万里生、そしてユマ、この三人の成長と未来を測り知ることはできません」

「そうよね、フィニアン疑ったりしてごめんなさい」

ロミは柔らかな視線でフィニアンを包んだ。

 

「ロミ様、いえロミ、とりあえず、お父様のいらっしゃる下のお部屋へ戻りましょうか」

フィニアンは、3人に置いてきぼりにされたロミの気持ちを察すると、静かに足元を確かめてから彼女の後ろに下がった。

 

そして二人がロミの部屋に戻ると、相変わらず妖精水の入ったグラスを持つ父博士と、類まれなる美貌の医学者、ジェーン・マックス教授がそこにいた。

 

ロミの父博士と、体格的には遜色のない長身の美女は、ロミを見ると心配そうな顔を隠した。

「ロミ、あなたは少し疲れているように見えるわ」

そう言って、ジェーンはロミの身体をその長い腕で包み込んだ。

 

「ジェーンありがとう、今、あなたの弟と私の娘が、ユマおばさんに連れられて月に向かって飛んで行ってしまったの」

 

「ロミ、あれを見て」

 

ジェーンは壁に下りているスクリーンを指さした。

 

 

次項Ⅳ-57に続く

 

 

 

 

 

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