ロミと妖精たちの物語84 Ⅲ-16 Amore心の旅路② | 「ロミと妖精たちの物語」

「ロミと妖精たちの物語」

17才の誕生日の朝、事故で瀕死の重傷を負いサイボーグとなってし
まったロミ、妖精と共にさ迷える魂を救済し活動した40年の時を経て
聖少女ロミは人間としてよみがえり、砂漠の海からアンドロメダ銀河
まで、ロミと妖精たちは時空をも超えてゆく。

 

 

 

マリアたちが妖精の翼に乗って到着したところは、ハンプトンコート宮殿の中庭では無く、宮殿の東側に広がる庭園を見渡すイーストファサードの芝生広場だった。

 

そしてそこに待ち構えているのは、門の上に飾られている銅像よりも遥かに大きな、まるでスフィンクスのように見える巨大なライオン、イングランドのドラゴンだった。

 

7人はロンドン塔のタワーグリーンで形成した陣形のまま、巨大なライオン・スフィンクスに対峙した。陣形の左右両翼を守るフィニアンとオーツ大佐は、それぞれにトネリコの杖とサーベルを使って、五芒星形の5人を守るシールドを構築した。

 

シールドのフロントに構える、本来の7フィートの巨人となったマリアは、ドラゴンボウルを胸の高さに置き、思念のエンパシーをスフィンクスに送った。

 

スフィンクスは、マリアのエンパシーを受け取ると、大きく口を開け、ハンプトンコートの広大な庭園に轟き渉る雷鳴のような咆哮を上げた。

すると闇の中に、スコットランドのユニコーンとウエールズのドラゴンがスフィンクスの左右に姿を現し、3体の巨大なドラゴンが横に並び、マリアを守るペンタゴンの前に対峙した。

 

   

 

マリアは目を閉じて心眼を開き、ドラゴンボウルを目の高さに掲げると、球体の中心を通して、スフィンクスたちに向けてバラ色の光線を浴びせた。そして彼らドラゴンたちを包含するほどの、巨大な思念の翼を広げた。

 

マリアの左右を守る、イングランドの王女メアリーと日本の八百万ヤオロズ神の使者真梨花は、ハンプトンコートの広大な敷地に眠る精霊たちを目覚めさせ、マリアの思念の翼に招いた。

 

真梨花の後方、五芒星形の底辺で祈りを捧げているフレッドは、巨大なスフィンクスを見て、砂漠でロミにひれ伏し銀の笛を捧げたスフィンクスを思い出し、少しだけホッとしていた。

 

未明の闇に浮かぶ巨大なドラゴンたちを、愛と癒しのバラ色のエンパシーが包んでゆく。

 

そしてスフィンクスが語りだした。

 

――おおマリア、愛と癒しの聖少女ロミ・アンドロメダの妹マリア、銀河を超えてこの地上に降り立ったメーヴ女王の子マリア、待っていたのだ、神に選ばれし第三の使者マリア、あなたを。

 

(マリアは心眼のままでその言葉を聞き、無心に受け入れた)

 

――そして我が主にしてこの庭の王女メアリー、無事のご帰還、我々一同心より歓迎致します。

 

(メアリーはその声を聴いて瞳を潤ませた。子供の時からずっとインスピレーションを与えてくれたあの声は、イングランドのドラゴン、あなただったのねと心の中で驚き、感謝をした)

 

――フィニアン、あなたの娘たちは、4人のスコットランドの妖精たちと共に、この迷路園の中に囚われています。この迷路園は、世に知られている太陽の迷路の下に、冥界へと繋がると言われる闇の迷路が隠されています。

 

――その、闇の迷路のどこかに邪悪なドラゴンが隠れ、あの6人の少女たちを鎖に繋いでしまったのです。

 

――闇の迷路の入り口は、年に一度、元旦の夜の間だけ開いております。今は午前3時、あと3時間でその入り口は閉ざされ、また1年の間、中へ入ることは出来なくなります。

――そして迷路を案内できるのは、このスコットランドのユニコーンだけです。

――ただし、この背に乗れるのは2人だけです。

 

「偉大なるスフィンクス様、その役はわたしが努めます」フィニアンは声を出して言った。

 

――フィニアン、気持ちはよく分かりますが、迷路に入れるのは女性だけです。そして資格があるのは、聖少女マリアとキャサリン・ケネディ・ロバーツさんのお二人だけです。

――さあ、時は待ってくれません、お二人とも、ユニコーンにお乗りください。

 

スコットランドのドラゴン、ユニコーンはマリアの前に出て脚をまげて腰を落とした。

 

「私は馬にも乗ったことがないけど、ユニコーンの叔父様、お願いね」

 

――マリア、私は女です。どうぞユリアと呼んでください。

 

「ごめんなさいユリア、そう言えば、あなたはとっても美人ね」

マリアはユリアの頬にキスをしたあと、テレビジョンで見たことが有る、西部劇のヒロイン、アニ―・オークレーを真似てユリアの背中に跨った。

 

「マリア、私はこれでも乗馬大回転のアメリカ代表よ。ユリア行くわよ」

覚悟を決めたキャサリンはそう言うと、6フィートの長身をマリアの背後に軽々と躍らせた。

 

 

 

 

 

手綱はタンデム後方のキャサリンが握り、マリアは5フィート3インチに戻り、キャサリンの視界を開けた。マリアはドラゴンボウルを鞍のバックルに固定し、ユリアに身を任せた。

 

――メアリー、真梨花、フレッド、ドラゴンボウルにエンパシーを送ってね。

――フィニアン、オーツさん、あなたたちもそこからシールドを守ってください。

 

3人の前方には深い霧が立ち込め、迷路園は闇の中、何も見えなかった。

 

キャサリンも目を閉じると、マリアのエンパシーを感じて、初めて心眼を開くことができた。

ドラゴンボウルの中心に光の粒が渦巻き始めると、ユリアの視線が二人にも見え始めた。

 

そしてそこに、深い霧の間にぽっかりとあいた暗黒の空間が見えた。

 

ユリアは、マリアとキャサリンに合図を送ると、深く腰を落として身構え、暗黒の空間に向かって大きくジャンプした。

 

次項 Ⅲ-17へ続く