ロミと妖精たちの物語77 Ⅲ-9 Amore失われた時を求めて⑨ | 「ロミと妖精たちの物語」

「ロミと妖精たちの物語」

17才の誕生日の朝、事故で瀕死の重傷を負いサイボーグとなってし
まったロミ、妖精と共にさ迷える魂を救済し活動した40年の時を経て
聖少女ロミは人間としてよみがえり、砂漠の海からアンドロメダ銀河
まで、ロミと妖精たちは時空をも超えてゆく。

 

 

 

その時、ミス・ロバーツが声を潜めてメアリー王女に聞いた。

「王女、あなたはマリアが宇宙人でもあることをご存知だったのですね」

 

「そうです、そして古代ケルトのメイヴ女王の娘であることも、アイルランドの友人を通じて知りました。私たち親子の妖精力についても、今お話ししたロミとの長いお付き合いについても、すべてほんとうのことです。今私たちは、夫にも聞こえるように開いた思念を使いました」

 

ミス・ロバーツは、王女とロミの会話が、思念で交わされていたにもかかわらず、普通の会話のように聞こえていたことを、今ようやく理解することができた。そしてそれは、メアリー王女も、ロミのエンパシーパワーに劣らぬ強い超能力の持ち主であることを表してもいた。

 

王女は席を立ち、窓辺に近づいて中庭を見下ろした。

「今日は新年の記念に、21時まで入場が延長されていましたが、今はもう、誰もおりません」

 

中庭の中央にそそり立つホワイトタワーとの間に、グリーンタワーと呼ばれる処刑されたアン・ブーリンとジェーン・グレイを慰霊するために造られたと言われる、クリスタルガラス製のテーブルモニュメントが置かれている。それは月光に照らされて輝き、暗い地面の石だたみの上に、まるで宙に浮いているように見えていた。

 

 

 

 

「ロミ、私は妖精の女王ガートルードとも親しくお付き合いをさせて頂いています」

「まあ、ガーティーからそんな話は聞いたことがありません」

ロミはきょとんとした顔で応えた。

 

「ガートルードには、私たち家族が妖精力を持っていることについては秘密にしてもらっていたのです。ご覧のとおり、王室は長い歴史の中に悲惨な魂たちをつくり続けてきました。彼らに、この子たちを見つけてほしくなかったからです」

王女は二人の少女を抱き寄せた。

 

「でも、隠しきることは出来ませんでした。あなたが世界を飛び回り、各地の亡霊たちを慰め、癒し、黄泉の国へ送り続けるとともに、あなたのエンパシーに触れて、テレパシー能力を身に着ける超能力者が増え続けていきました」

 

王女は真剣なまなざしを崩さず、ロミとマリアとミス・ロバーツに話を続けた。

 

「今日、このロンドン塔に訪れた観光客の中にも、英国王室に好意を持たない超能力者が来ていました。彼らの興味本位で、これから起こることを感知して欲しくなかったのです。彼らは亡霊を呼び出してあなたの真似ごとをして、騒ぎを起こすからです」

 

「私の真似をして?」

 

「もちろんあなたのようには、悲しき魂を正しく天国へ導くことは出来ません。彼らは、霊たちをもてあそぶだけです、それが自身に死を招くことも、リスクとして有るのを承知の上で」

 

「まあ、なんということでしょう」

ロミは自分の歩いた道のあとに、そんな現実があることに気づかなかった。

そして改めて、自分の限界を思い知らされているような気がした。

 

ロミが可哀想な魂たちを解放するとき、精霊の力を呼ぶことができる、ある種の霊能者たちに協力をしてもらうその時に、ロミのエンパシーパワーに影響されて、新たに超能力を授かる人もいる。その多くの人たちは現在、国連のエネルギー局から依頼され、電力に恵まれない地域に造られたエンパシー発電装置の管理を任されて活躍しているが、そうでない人もいる。

 

それまで黙っていたフレッド・ケネディーが、王女に話をした。

「メアリー王女様、ご存知とは思いますが、彼女は40年前に遭った大きな事故のため、サイボーグとなって聖少女ロミとして生きてきました、ロミはこの40年の間、普通の人間では無かったのです」

 

王女は長身の長い腕を伸ばし、ロミを優しく抱いた。

「ロミ、ごめんなさい。人間に戻ったあなたに、休む間もなくここへ来ていただいた事は、あなたにとって大変な負担で有ることは重々承知しています」

 

更に王女は手を伸ばし、マリアの手を取った。

「マリア、あなたは地球で生まれた人、私はメイヴ女王の子としてのあなたにも、力を貸して、助けていただきたいのよ」

 

王女を中心にロミとマリア、3人は手を取り合い、トリニティ―を形作った。

 

 

 

 

ロンドン塔に部外者の姿は既に無く、食事を提供したスタッフもヨーマンズハウスに戻り、このクイーンズハウスにはケルト出身の黒服の執事を含めてロミたち10人だけとなっていた。

 

王女メアリーは室内の全員に聞こえるように、開かれた思念で、これまでの事を語った。

 

いたずらに超能力を得た者たちが、ロンドン塔の幽霊伝説を狙って暗躍を始め、王室を嗅ぎまわり、メアリーの二人の子供が何気なく発したエンパシーを受信してしまい、それからメアリー達が住むハンプトンコートの城を脅かし始めたため、家族は城を離れてこのクイーンズハウスへ来ているとのことだった。

 

――彼らはアン・ブーリンとジェーン・グレイの亡霊が今もここにあると思っているのです、それは昔からある有名な話ですが、あくまでも夢物語りであり、想像の世界のことです。でも、ある意味で無法者の彼らは、エンパシー能力を使って、このロンドン塔を狙って邪(ヨコシマ)な思念を送ってくるのです。

 

――そして昨日、新年のカウントダウンの鐘の音とともに、この娘たちが見てしまったのです。あそこに見えているクリスタルテーブルの上に現れた亡霊を、そして、その驚きの思念が彼らに伝わってしまったのです。私は慌ててイヅモの女王に助けを求めました。

 

年越しの荒行を終えて、イヅモの森の社で眠りに付いていたミドリは、速やかに対応策をつくり、スライゴーにいるガートルードと連絡をとり合い、ロミとマリアと真梨花を派遣するように応え、3人をアテンドしているフレッドに指示をしたということだった。

 

――今もこの塔の周りには、邪悪な超能力者たちが潜んでいます。彼らにグリーンタワーの亡霊を汚されたくないのです。彼らに対しては、ケルトの聖戦魔術師であるオーツ大佐と私たち家族が抑えます。そしてロミとマリアのお二人には、亡霊が抱き包む魂たちを救って頂きたいと思います。今は退役してヨーマンズのトップを担っているオーツ大佐は、南極探検隊員の海軍中尉ローレン・オーツ氏の直系の子孫なのです。

 

ヨーマンズ・リーダーの黒服執事オーツ大佐は、ロミたちに深々とお辞儀をした。

 

 

 

 

ロミは目を閉じて心眼を開き、意識をロンドン塔の上空へと上り、周囲を俯瞰した。

 

――メアリー、悲しきエスパーは3人、そしてその仲間は4人、合わせて7人います。決して侮ることはできません、グリーンタワーの亡霊はマリアと真梨花そしてフレッドがお相手をします。

 

――宇宙人とケルトの女王と二つの血脈を併せ持つマリアは、それだけのパワーを持っています。私は意識となって上空からサポートします。ミス・ロバーツ、あなたはフレッドの横で彼の指示に従って行動してください、フレッドは信頼できる人です。

 

――真梨花とフレッドとミス・ロバーツ、あなた達がマリアに精霊を伝えるトリニティーとなるのです。そしてメアリー、あなた達はホワイトタワーの屋上から城壁を見張ってください、彼らを死なせてはいけません、壁を越えさせなければ大丈夫です。彼らにも、神に与えられた使命を全うさせてあげるのです。

 

9人の戦士たちはロミの言葉に従い、グリーンタワーの広場とホワイトタワーの屋上へと向かった。ロンドン塔は月の光以外はすべて消され、冬の冷たく固い闇に、包まれていった。

ロミの意識は、上空からそれぞれのエリアを見守り、場外のエスパーたちの動きもロックした。

 

――準備はいいかしら、みんな信じるのよ、この世界を守る神様を、さあ行きましょう!

 

 

次項Ⅲ-10へ続く